甚大な被害を出した東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から13年が経過した。関西電力は2023年7月、運転開始から48年を超え、国内最古となる高浜原発1号機(福井県高浜町、82・6万キロワット)を再稼働させるなど、福井県内では原発回帰の動きが進む。一方、元日の能登半島地震の影響で、北陸電力志賀原発(石川県志賀町、運転停止中)ではさまざまなトラブルが発生、半島部の避難計画に対する課題も浮き彫りになった。原発を巡るこの1年の動きと課題をおさらいする。【柴山雄太】
60年超運転に現実味
23年5月、原発の60年超運転を可能にする「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が成立した。東京電力福島第1原発事故後に導入した「原則40年、最長60年」との運転期間の規定を、経済産業相の認可で延長できるようにする。
同年12月には、関電が全国で初めて、同法に基づく新制度の下で大飯原発3、4号機(ともに福井県おおい町)の30年超運転に必要な「長期施設管理計画」を策定し、認可申請を原子力規制委に行った。関電は今後、高浜原発などの認可申請もする方針で、国内初の60年超運転が福井県内で実施される可能性がある。
くすぶる使用済核燃料問題
関電は23年6月、高浜原発に保管されている使用済みの核燃料とウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料計200トンを20年代後半にフランスに搬出し、使用済みMOX燃料の再処理実証研究に使う計画を公表した。同年末までに関電が県外への搬出候補地を決められない場合、県内の40年超原発3基を停止すると県と約束していたが、関電の森望社長は「県外に搬出するという意味で中間貯蔵と同等の意義がある」として「約束はひとまず果たされた」と主張した。
これに対し、同県議会からは「開き直りだ」「理解できない」などの批判が相次いだ。それでも、杉本達治知事は関電の主張を容認した。県としても原発を止めるメリットは薄いとみられ、ある自民系ベテラン県議は「知事は落としどころを探していた」と話す。
関電は同年10月、県外搬出計画(ロードマップ)を県に提示し、30年ごろに中間貯蔵施設の操業を開始するとしているが、具体的な建設地は記されておらず、根本的な解決にはほど遠い状況だ。
そんな中、関電は県内の原発敷地内で「乾式貯蔵」を実施する計画も示した。乾式貯蔵は使用済み核燃料を金属製の専用容器に入れて保管する。関電は、乾式貯蔵が始まり、その分の貯蔵プールが空いても「原則使わない」として、敷地内での貯蔵容量全体は増やさないとの立場だ。しかし、「国内外の情勢や自然災害など自社の事由によらない増加」は例外としている。関電は「(青森県六ケ所村の)再処理工場の完成遅れは例外に当たらない」と説明するものの、事実上の「最終処分場化」を懸念する声もある。
交通寸断 避難の「前提」崩壊
元日の能登半島地震では、志賀原発が立地する半島部の避難についての課題も表面化した。原子力規制委が策定した指針では、原発から5キロ圏の住民は、事故の兆候があった時点で即時に圏外避難し、5~30キロ圏の住民は原則として屋内退避し、空間線量を実測して値が上昇すればその場所から避難するとしている。しかし能登半島地震では交通網が寸断され、多数の住宅も倒壊。避難の「前提」が崩れた。
震度5強を観測した志賀原発は、外部電源から電力を受ける変圧器2台が破損し、5回線ある外部電源のうち2回線が使えなくなっている。再稼働に向けて安全審査を受けている2号機について、原子力規制委の山中伸介委員長は、「地震の引き金となった断層を確定するまでに、年単位の時間がかかる」と述べ、審査の長期化は不可避の情勢だ。
国は原発推進に再びかじを切ったが、さまざまな課題は棚上げされたままになっている。【毎日新聞】