東京電力福島第一原発の汚染水の浄化装置から汚染水が漏れた原因は、作業した関連企業の従業員の思い込みによるヒューマンエラーだった――。東電が15日に記者会見して公表した。作業ミスがあっても漏出が起きないように、建屋自体の構造工事に取りかかるという。
事態を重くみた東電の小早川智明社長はこの日、福島第一原発を訪れ、関連企業の社員を集めて「基本動作の徹底、現場・現物を徹底、疑問に思ったら声をあげて確認し、いったん立ち止まる」ことを求めたという。
東電によると、配管の洗浄作業に伴い、7日午前8時33分から42分間、濾過(ろか)フィルターなどにつながる弁が開いていたことで漏出が起きた。2020年4月以降、これまで14回実施された洗浄作業では、弁はすべて閉じた状態で関連企業の従業員が洗浄を始めていた。
通常は浄化装置を停止した後、すぐに洗浄作業を始めることが多かったが、今回はスケジュール調整で、洗浄作業を始めるまでに2日間あった。このため、内部に水素がたまらないように、運転部門の担当者が弁を開けていた。関連会社の作業員は、これまでと同じように弁が閉められていると思い込み、見落としてしまったという。高線量下の作業だったため、早く作業を終えたいという意識も弁が開いた状態であることを気づけなかった原因だったと東電はみている。
社内では通常、作業手順書を運転部門の担当者が作るが、福島第一原発では例外的に、運転員の被曝(ひばく)線量を抑えるために保全部門の担当者が担っていた。運転部門が弁を開けたことを保全部門が認識していなかったという。保全部門で作成された作業手順書も、弁の状態について「『閉』を確認する」との表記になっていたため、現場の作業員が気づきにくい要因だったとみている。表記を「(当該弁を)『開』から『閉』に操作する」とすべきだったとしている。
漏出が見つかった時間帯に大気中の放射性物質の濃度を測るダストモニターの値が一時的にごくわずかに上昇していたが、原発の敷地境界モニタリングポストなどの値に有意な変動がないことから、東電は「現時点で外部への影響は確認されていない」としている。
第一原発では昨年10月に、作業員が高濃度の汚染廃液を浴びる問題が起きていたことから、東電の担当者は「再発防止の取り組みを徹底したい」と話している。(岡本進)
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東京電力福島第一原発で汚染水の浄化装置から汚染水が漏れ出た問題で、内堀雅雄知事は15日の定例会見で、「あってはならないこと」と述べ、原因の究明と再発防止の徹底を求めた。
汚染水漏れは今月7日に発生。昨年10月には、ALPS(多核種除去設備)の配管洗浄で作業員の身体汚染も起きている。内堀知事は、県として身体汚染で東電に安全管理体制の構築を求めているさなかに、再び県民に不安を与えるトラブルが起きたと言及し、「県民から厳しい目が向けられている」として当事者として東電の意識改革の必要性にも触れた。今後、廃炉安全監視協議会などを通じて東電の取り組みを確認していくとも述べた。
また、福島市などが導入を目指す性的少数者らのパートナーシップ制度について、県にも導入を求める意見があることには「市町村などの意向を丁寧に伺っていく」とした。
内堀知事は、開会中の2月県議会に追加提案する今年度補正予算案も説明。新型コロナが5類に移行したことに伴う対策の縮小などで総額1154億円の減額補正となる。
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汚染水漏出を受けた東京電力の対策
・高濃度の液体放射性物質を扱う作業では、同社の運転部門に手順書作成など作業前管理を一元化する
・水処理に関して設計・保全を一元管理する「水処理センター」を設置する
・設備操作をする協力企業の作業員全員に研修を実施し、作業現場では協力企業の事業所長自らがパトロールして監督する
・ヒューマンエラーが起きても放射性物質の屋外漏出が起きないよう、今回の建屋内の構造を改造する
【朝日新聞】