悪条件が重なれば大事故につながっていたのではないか。不安が拭えない。
能登半島地震の震源に近い北陸電力志賀原発(石川県志賀町)である。最大震度7を観測した元日以降、原子力規制委員会は「大きな異常はない」としている。
放射性物質の漏えいなどはないようだ。だが現場では、施設の設計上の想定を上回る加速度の揺れが起きていたほか、外部電源を受けるための変圧器が破損し、油漏れまで起きていた。
志賀原発は1、2号機とも運転停止中で、2号機は再稼働の審査が進む。規制委は表面化した問題を審査に反映させる方針だ。審査は長期化の見通しとなった。
北陸電力は経営改善を狙い再稼働に固執しているが、抱える課題の解決はあまりに難しい。断念も視野に入れるべきだ。
想定を上回る揺れが実際に起きたということは、その想定自体が甘かったことになる。今回は安全上問題はなかったと強調しているが、次もそうとは限らない。
志賀原発では2016年、敷地内の断層について、活断層である可能性が否定できないとする規制委の評価が確定。新規制基準は活断層上の設置を禁じており、再稼働が困難になっていた。
北陸電力はその後も諦めず、活断層ではないとの独自の調査結果を提示。規制委は昨年3月にこれを妥当と判断。再稼働へ進む可能性が出ていたところだった。
今回の地震は、能登半島の北部や沿岸を走るいくつかの活断層が、150キロにもわたって連動して発生したと考えられている。
真下を走る断層に注目するだけでは不十分だ。大きな地震が起きやすい地域に立地し、想定以上の揺れが起きた事実を深刻に受け止めねばならない。
北陸電力は今回、情報発信でも課題を残した。変圧器からの油漏れについて当初、実際の量より大幅に少ない量を発表していた。同社は07年に臨界事故の隠蔽(いんぺい)が発覚し、批判を浴びた経緯もある。事実の正確な発信を欠いていては信用を失うだけだ。
被災地の現状を見ると事故時の避難の難しさも明らかになったと言える。半島という地理的にアクセスの限られた地域で道路が寸断され、多くの集落が孤立状態になった。危険性を知るための放射線監視装置も各地で故障した。
全国ではほかにも、四国電力伊方原発(愛媛県)など半島に位置する原発がある。避難計画の実効性を問い直す必要がある。【信濃毎日新聞】