茨城県は28日、日本原子力発電東海第2原発(同県東海村)で炉心が損傷する重大事故が起きた場合、放射性物質が周辺にどのように拡散するかのシミュレーション(予測)結果を公表した。事故対応状況や気象条件を変えた計22パターンのうち、原発から30キロ圏内の避難者は最大で約17万人に上った。県は予測結果を活用し、避難計画の実効性を検証する。
◆原発30キロ圏内の人口は全国最大の91万人超
東海第2原発は首都圏唯一の原発で、2011年の東日本大震災後、運転停止中。東海村など重大事故時に即時避難する半径5キロ圏内に6万4451人が居住。毎時20マイクロシーベルトの空間放射線量で避難となる半径30キロ圏内を含めると、14市町村で全国最大の計91万6510人が住む。
予測は県が日本原電に要請した。事故状況をフィルター付きベントなど事故対策設備の一部が機能した場合と、「ほぼ全て」が機能喪失した場合の2通りを想定。それぞれ気象条件を
(1)同じ風向きが長時間継続
(2)同じ風向きに加えて降雨が長時間継続
(3)ほぼ無風
と変え、24時間後の放射性物質の拡散範囲を分析した。
◆避難者が最大となるのは「水戸市方面が風下かつ降雨あり」
避難者が最大となったのは、原発から南西、水戸市の方向が風下となり降雨を伴った場合で、対象人口はひたちなか、那珂両市で計10万5191人。5キロ圏内からの避難者を合わせると計16万9642人となる。同じ風下方向で降雨がない場合でも、水戸市で約5万9000人の避難者が出た。
一方、原子力規制委員会の審査で用いる重大事故を想定したもう一つのケースでは、5キロ圏内を除いて避難が必要となる地域は発生しなかった。
東海第2の事故時の広域避難計画は県のほか周辺5市町が既に持ち、他自治体も今後策定する。県の担当者は「予測結果をもとに、計画での避難にかかる時間や車両配備などの実効性を検証する」としている。
予測結果は県ホームページ「原子力安全対策課」で公開している。
◆大井川和彦知事は避難の実効性に自信を見せるが…
茨城県が重大事故時の放射性物質の拡散予測を公表した日本原子力発電東海第2原発は、岸田政権が再稼働を目指す原発の一つに挙げる。再稼働は地元自治体の広域避難計画策定が条件で、予測結果は計画づくりの大前提となるが、想定には甘さが否めない。
東海第2の再稼働を巡っては2021年3月、水戸地裁での訴訟で「避難計画の実効性がない」などの理由から運転を認めない判決が出た。大井川和彦知事は28日の記者会見で「最大でも17万人の避難という結果が出た。相応の準備をすれば(避難計画の)実効性は確保できる」と述べた。
◆想定が少なすぎる?
ただ今回の予測は、安全対策が「機能した」「機能しなかった」の二つの想定しかなく、放射性物質の放出時間も事故後24時間限定で、想定規模は福島第1原発事故より小さい。避難者が出るケースも隕石(いんせき)落下やミサイル攻撃など「現実的には考えにくい」とするが、ウクライナ紛争では実際に軍事攻撃の標的になるなど「想定外」はあり得る。
実際に重大事故が起きれば、避難対象地域外で自主避難者も出る。原子力防災に詳しい環境経済研究所(東京)の上岡直見代表は「人員や車両を整えれば避難はできても、その間に住民の被ばくが許容量を超えたら意味がない。被ばくに関しどう実効性を検証するのかが見えない」と話す。
県は条件や設定を追加した分析を原電に求めた。真に「実効性ある」避難計画づくりにはまだまだ時間を要する。【東京新聞】