九州電力川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の1・2号機の20年運転延長が1日、国に認可された。県民投票の実施を求めた市民らは、原発の老朽化などに懸念の声を上げた。
県庁で取材に応じた塩田康一知事は「厳正な審査をお願いしてきた。それを踏まえた審査結果と考えている」と受け止めを語った。
今月中にも開催する県の専門委員会で、今回の審査内容について原子力規制委に詳しい説明を求める考え。専門委の見解やその後の県議会での議論を踏まえ、「最終的に県の考え方を整理したい」と述べ、現時点で運転延長への賛否には触れなかった。
運転延長に関しては再稼働や増設と異なり、地元同意が必須とされていない。同意の必要性について考えを問われた塩田知事は「県としては、科学・技術的な検証を踏まえ、九電や規制委に考えを伝えてきた」と回答。地元の意向を示す必要性はあるとの認識を持ち、対応してきたと説明した。
塩田知事は「(運転延長をめぐる県民の意向把握のための)県民投票を必要に応じて実施する」と知事選の公約に掲げたが、最終的に「実施しない」と決めた。この点については「県の考え方を整理する際の判断材料として、県民投票という方法が必要とまでは考えなかった」と改めて強調した。
運転延長の是非を問う県民投票の実施を求め、署名活動を続けてきた市民団体事務局長の向原祥隆さん(66)は「原発の運転は40年が原則と認識しているが、他の地域でも延長申請が認可されなかった事例はない。規制委は形骸化している」と批判した。
東京電力福島第一原発事故から12年となる今も、現地には帰還困難区域が残る現状などに触れ、「事故はまだ終わっていない」。今年8月に始まった処理水の放出で、水産業などに風評被害の懸念が生じたことを見ても、「地元が背負うリスクは極めて大きい」と実感しているという。
さらに、運転期間の延長は、老朽化に伴う安全性の低下や使用済み核燃料の処理など、「様々な問題を引き起こすことは目に見えている」と言い切る。
そうした問題意識から県民投票を求めたが、条例案は県議会で否決された。最大会派の自民党などが「原子力政策は国の責任で判断すべきこと」といった理由で反対した。
「本来は議会や首長が防波堤になるべきだが、現状は国の意向をうかがうばかりで、思考停止に陥っている。住民の意向を最優先に考えてほしい」と訴えた。
反原発の個人や市民団体でつくる「川内原発30キロ圏住民ネットワーク」は、規制委に認可の撤回を求めて抗議。塩田知事にも、延長の賛否を県民に問うことなどを求める要請書を提出した。記者会見した高木章次代表は「安全規制を放棄したかのような規制委員会の認可だ。県の専門委員会で厳しく追及してほしい。運転延長について県民は極めて不安に思っている」と話した。
県の専門委で分科会のメンバーだった元原子力プラント設計技術者の後藤政志さん(74)は、巨大で複雑な原発には「想定外のことが起こる」と指摘する。
今年1月に自動停止した高浜原発4号機(福井県)は原因究明に1カ月以上かかった。限られた特別点検の項目だけで運転延長の可否を判断するやり方に警鐘を鳴らした。
原発が立地する薩摩川内市での反応はどうか。
田中良二市長は「法令に則(のっと)った『科学的・技術的な評価』と受け止めている」とし、九電に対して「安全な運転管理の徹底と、市民への情報公開と丁寧な説明を求める」とコメントを出した。
市原子力推進期成会の会長で川内商工会議所の橋口知章会頭は「原発は市にとって地元経済界、地場産業の維持のため、大変重要で必要不可欠。九州電力には、安全性の確保を最優先した運転継続をお願いしたい」とした。
九電の池辺和弘社長は「電力の安定供給確保とカーボンニュートラルの実現の両立に向け、『安全性の確保を大前提に、原発を最大限活用していく』という当社方針において、大きな一歩」「今後も安全・安定運転に取り組み、地域のみなさまに安心し、信頼いただけるよう、積極的な情報公開に努める」とのコメントを発表した。
池辺社長は近く、今回の認可について説明するため、塩田知事と田中市長を訪問する予定。その際、県から7月に受け取った要請書に対しても回答するという。【朝日新聞】