中国電力が山口県上関町に建設を検討する使用済み核燃料の中間貯蔵施設について、周辺の市町の首長らから発言が相次いでいる。将来のまちづくりへの悪影響を懸念する訴えや、説明のないまま足早に事が進む状況への批判や戸惑いの声も上がる。周辺の不安や反発をよそに、上関町の西哲夫町長は「町のことは町が決める」と言う。(山野拓郎、鈴木史、三沢敦)
「将来にわたって、町づくりに大きな影響を与えることを危惧している」
上関町の近隣2町、平生町の浅本邦裕町長と田布施町の東浩二町長は、9月議会の質問で中間貯蔵施設が及ぼす影響についての見解を問われ、同じ言葉で懸念を表明した。
8月18日、西町長が施設建設に向けた中電の調査受け入れを表明。周辺の各市町の9月定例議会で、この件をめぐる質疑が続いた。
質問に立った議員や住民から多く指摘が出たのは、事故や災害が起きた時の放射能漏れなどの危険性をめぐる問題や、核燃料サイクルが確立されていない中で貯蔵の期間が延長され続けることがないか、との疑問だ。
浅本・平生町長は今月8日の議会で、移住・定住、子育て・教育の施策を進めている町づくりへの影響を指摘。「町長としての立場」での意見は保留しつつ、「私も『できることならやめてほしい』と本心では思っている」と施設建設への抵抗感を隠さなかった。
東・田布施町長は7日の議会で「施設のメリットとデメリット」を聞かれ、瀬戸内海に面した自然豊かな環境や住民同士の温かなつながり、といった魅力をアピールした移住・定住を促す施策に町が力を入れていることを強調した上で、「仮に施設ができればイメージ低下は少なからず避けられないのが事実だろう、と思う。現時点で、メリットはないと考えている」と懸念を表明した。
議員からはさらに強い警戒の言葉が聞かれた。光市の仲山哲男議員は12日の議会の一般質問で「UJIターン、この地域に住もうという意欲はかなりそがれる。市の未来に暗い影を落とす」と指摘した。
上関町が調査受け入れに至るプロセスにも批判が上がった。町側が求めた地域振興策として中電が中間貯蔵施設を提案したのが8月2日。町は調査を受け入れたのはわずか半月後だった。その間、町民への説明会は開かれず、国や中電から周辺自治体への施設をめぐる説明もなかった。
真っ先に反応したのは岩国市の福田良彦市長だ。調査受け入れから3日後の市長会見で「率直に言って唐突。上関町の多くの方にとっても寝耳に水だったのでは。一般的に(受け入れ決定までの)時間があまりにも短い。地域の方々が取り残された感もあるのでは」と不快感をあらわにした。
9月6日の議会答弁でも「岩国市も含め、地域住民の理解促進がないままに色々な手続きが進んでいくことが大きな不安を生んでいると思っている」と重ねて苦言を呈した。
周防大島町の藤本浄孝町長も20日の議会で「周辺町として最初の段階で事前に配慮を頂きたかった」と答弁。「これが国の政策ならば、国や電気事業者から町及び住民に、納得が得られるよう説明を尽くして頂くべきことだ」と訴えた。東・田布施町長は、施設の安全性の理解が得られた後に、交付金などの地域活性の話がされるべきだとして、今回は「順番が逆」と繰り返している。
原発敷地外の中間貯蔵施設は現在、青森県むつ市にあるのみ。前例の乏しい問題が突然に持ち上がり、情報不足に戸惑う首長は少なくない。
光市の市川熙市長は、上関町での原発建設に「賛成できない」と公言してきた。中間貯蔵施設への対応が注目されたが、12日の議会では「動向を注視する。注意深く経過を見守っていく所存」と言うにとどまった。この答弁をめぐり、報道陣の取材に対して「原発に関しては長い長い議論を経て意見を表明した。今回は十分に調査をしたり、考えをまとめたりする暇(いとま)がまったくない。唐突すぎてすぐに賛成、反対ができるわけがない」と説明した。
同日の議会で、周南市の藤井律子市長は「情報を収集し、正しい状況把握に努め、県・周辺自治体などの対応を注視する」と繰り返し、下松市の国井益雄市長も「施設に賛否両論あり、我々もどう判断すればいいのか。安全安心が確保されるのか注視していきたい」と答弁した。国井市長に「明確なメッセージ」を求めた田上茂好議員は「安全かどうか判断できないから何も言えない、では行政を進める上でまずい。自身でも調査し、市長の役目として発言する必要がある」と注文を付けた。
これらの市町より距離の離れた自治体の首長は、直接的なコメントを避けた。和木町の米本正明町長は13日の議会で「和木町は上関町の『周辺自治体』ではなく、建設調査エリアから約50キロ。町に直接的な影響が出るとは考えていない。多少拙速感はあるものの、西町長は議会の意向も踏まえて決断されたのでコメントは差し控える」と述べた。山口市の伊藤和貴市長は「上関町の決定で、コメントする立場にないが、瀬戸内海の沿岸自治体の一員として瀬戸内海への影響に関心がある」と8月31日の会見で発言した。
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各市町の議会で、上関町の中間貯蔵施設の予定地からの「30キロ圏」に言及する質疑が聞かれる。
国の原子力災害対策指針は、原子力災害の発生時に影響の及ぶ可能性がある区域を「原子力災害対策重点区域」と定め、対策を講じることを求める。
原発の場合、おおむね半径30キロの範囲をUPZ(緊急時防護措置準備区域)と呼び、住民はまず屋内に退避すべきだとされている。
使用済み燃料の貯蔵施設について指針では、上関町で計画されている「乾式キャスク」で貯蔵する場合、「原子力災害対策重点区域を設定することは要しない」とされており、質疑での「30キロ圏」は目安としての言及のようだ。
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問題への対応に「周辺自治体」の連携を唱える声も上がる。「今後は柳井広域(柳井市と田布施、平生、上関、周防大島の各町)または熊毛2町(田布施と平生)で連携して意見をまとめ、意思表示をしてきたい」と訴えるのは東・田布施町長。柳井市の井原健太郎市長も8月25日の会見で「柳井広域の1市4町で一つの地域、運命共同体としてやってきた」と地元への説明を求めていく考えを強調した。
一方、市川・光市長は「この事務に関して決定権は上関町にあり、私たちにはない。周辺自治体が組んで、ということはなかなかできにくいのではないか」と「共闘」に否定的だ。ただ、光市議会には、建設地から30キロ圏内の自治体の「同意権」を認めるよう中電に促すことを求める国への意見書案が出されており、市川市長は可決されれば参考にするという。
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上関町は調査受け入れの条件の一つとして「周辺市町への適時適切な情報提供」を求めた。これを受けてのことか、西町長は13日の議会で「基本的に周辺市町の理解活動は、事業者及び国が中心になって行って頂けると考えている」との認識を示した。批判が起きている周辺市町への対応を重ねて問われると「とやかく言う立場ではないが、各首長さんは、地方自治法の原則で町の意思は町が決定する、ということをご理解頂いていると思っている」と述べた。開き直ったような答弁に、反対の立場の清水康博議員は「(周辺の)住民に対して、その理屈は通らない。住民が風評被害を感じるのであれば考えていかないと」と釘を刺した。【朝日新聞】