岸田文雄首相は7日、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領とソウルの大統領府で会談した。岸田首相は元徴用工問題をはじめとした歴史認識問題に関し、個人の立場から「心が痛む思いだ」と言及。尹氏は「歴史問題に完全にけじめをつけない限り未来に進めないとの考えから脱却しなければならない」と述べ、日韓関係を未来志向で強化していく方針で一致した。東京電力福島第1原発事故で生じた処理水の海洋放出に向け、韓国が専門家による現場視察団を今月23日に派遣することで合意した。
会談は少人数会合と全体会合の計約1時間45分行われた。今月19~21日に広島で開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)に招待国として参加する尹氏と岸田首相が、広島の平和記念公園にある韓国人原爆犠牲者の慰霊碑を共に参拝することで合意した。韓国人犠牲者の慰霊碑を日本の首相が参拝するのは1999年の小渕恵三首相(当時)以来となる。
半導体分野での日韓サプライチェーン(供給網)構築に向けた連携強化でも一致。北朝鮮のミサイル警戒情報のリアルタイム共有に向けた当局間協議を歓迎した。両国の地方都市間の航空路線を新型コロナウイルス禍前の水準まで回復させることなども打ち出した。岸田首相はアフリカ・スーダンからの邦人退避に韓国軍が協力したことへの謝意も伝えた。
両首脳は会談後、共同記者会見に臨んだ。岸田首相は植民地支配への反省を明記した98年の日韓共同宣言など、歴史認識に関する歴代内閣の立場を岸田内閣も全体として引き継いでおり「この政府の立場は今後も揺るがない」と説明した。
その上で「多くの方々が過去のつらい記憶を忘れずとも未来のために心を開いてくださったことに胸を打たれた」と言及。「私自身、当時厳しい環境の下で多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む思いだ」とし、個人の立場を強調しつつも元徴用工問題の解決策などに複雑な感情を抱く韓国側に歩み寄る姿勢を示した。
日本側の説明によると、「心が痛む」との表現は会談でも用いられたという。過去には15年の慰安婦合意の際、安倍晋三首相(当時)が朴槿恵(パク・クネ)大統領との電話協議で「心が痛む」との表現を使ったことがある。
尹氏は共同会見で、米韓両国が4月に合意した核の傘を含む拡大抑止を強化する「ワシントン宣言」に「日本が参加することを排除していない」とし、日米韓の安保協力の更なる深化に含みを持たせた。
岸田首相は7日、会談に先立ち日本統治時代の独立運動家や歴代大統領らが眠る墓地「国立ソウル顕忠院」で献花した。共同会見後には夕食会も開かれた。
今回の訪韓は3月に東京で行われた日韓首脳会談での「シャトル外交」再開合意に基づくもので、日本の首相の訪韓は安倍晋三首相(当時)が平昌冬季オリンピックの開会式出席のために訪れた2018年以来5年ぶり。シャトル外交による訪韓は野田佳彦首相(同)の11年以来12年ぶり。岸田首相は8日、韓国財界人との会合を経て帰国する。【毎日新聞】