中国、関西電力は30日、事業者向け電力販売でカルテルを結んでいたと公正取引委員会から認定されたことを受け、謝罪会見を開いた。一方、中部電力は公取委の決定を不服として取り消しを求める訴訟を提起することになり、電力業界は大きく揺れた。
「会社の信頼を失墜させ、巨額の課徴金納付命令を受けたことを厳しく受け止める」。中国電の滝本夏彦社長は記者会見で深々と頭を下げ、引責辞任することを明らかにした。2017年11月以降に関電と営業活動について意見交換する中で「私自身を含め、一部に不適切な行為があったことを確認している。独禁法への抵触を疑われてもやむをえない面があった」と述べた。
関電の森望社長も30日、大阪市の本店で記者会見し、カルテルに中心的に関与したのは岩根茂樹社長▽森本孝副社長▽弥園豊一副社長(肩書はいずれも当時)ら、当時の首脳陣だったと明らかにした。森本氏は22年6月まで約2年間、社長を務めた。
関電によると18年秋ごろ、社内会議で販売電力量と販売価格を「最適化」するために管轄する関西エリア外での営業活動を縮小する方針を決め、その内容を3電力に伝えたという。当時社長の岩根氏や、営業部門と企画部門のトップだった弥園氏、森本氏が会議の議論に加わった。中国電、九州電力には森本氏が方針を伝え、中部電には現在子会社社長の川崎幸男常務執行役員(当時)が伝えた。実際に関電が3社にカルテルを持ちかけたかどうかについて、森社長は明言を避けた。
20年秋ごろに外部からの指摘を受け、社内調査した結果、独禁法違反に当たる行為と発覚。同年10月に公取委に報告し、課徴金の減免制度を申請した。3電力には課徴金などの処分が科されているが、森社長は「(自主申告を)判断したことは妥当だ」と話した。その上で「他社と対等な関係で販売競争をするという認識が足りなかった」として「ご迷惑をおかけしていることを深くおわび申し上げる」と陳謝した。
一方、公正取引委員会の命令が不服として、中部電とグループ会社「中部電力ミライズ」は命令の取り消し訴訟を提起する。30日に会見した中部電の水谷仁副社長は「関電との間で営業活動を制限する合意はなかった。独占禁止法違反となる合意はなかったという判断をした」として、6カ月以内に東京地裁に訴訟を提起する方針を表明した。
公取委は中部電と関電は互いに相手の供給エリアでの営業活動を制限するカルテルで合意したと認定した。しかし、中部電は独禁法違反とされた関西エリアでの企業などの大口契約について、独禁法違反があったとされる18年11月から20年10月までに契約電力量や販売電力量が約3倍に増加していると主張。「関電エリアで契約を獲得するのは非常に大変な販売努力を要する。独自の販売戦略のもとで営業活動をしてきた」と主張した。公取委は「中部電が関電エリアの顧客獲得目標を大幅に下げた」としているが、中部電は実績などに応じた自主判断だとした。
水谷副社長は関電側と役員クラスが面談していたことは「事実」と認めた。ただ、業界の会議やあいさつなどの機会に伴うもので「公取委が指摘するような営業活動を制限する合意はなかった」と述べた。今後、法的責任について争うが、「公正な競争に対して疑義を招いた責任はある。責任の取り方も合わせて考えていかなければならない」とも語り「心配をおかけし、おわびする」と謝罪の意を示した。コンプライアンスの徹底など今後の方策については4月7日にも林欣吾社長が説明するという。
また、九電の池辺和弘社長は記者会見を開かず「各命令の内容を精査・確認のうえ、今後の対応を慎重に検討する」とのコメントだけ発表した。
「情報交換」電事連にも申し入れ
カルテル問題に関連し、公取委は30日、電気事業連合会の会合前後に会員会社が越境営業の情報を交換していたなどとして、電事連に対して独禁法につながる可能性がある情報を交換しないよう申し入れた。ライバル関係にあるはずの電力各社の強い結びつきを問題視した。
「(独禁法)違反行為にかかる情報交換が行われた事実が認められた」。公取委の田辺治審査局長は30日、東京都内の庁舎で電事連の池辺和弘会長(九電社長)に告げた。
申し入れ書によると、電力大手の間では、代表者や役員、担当者級など幅広い層で営業活動の方針や状況についての情報交換が長年行われ、管轄外で営業する際には当該エリアの会社に慣習的に知らせる「仁義切り」が横行していた。公取委はカルテル問題の調査の過程で、関電と中国電が電事連の会合前後にこうしたやり取りをしていたと確認したという。中部電と九電を含む4社から電事連への出向経験者が当時の関係を利用して仁義切りをしていたこともあった。
電事連は1952年に設立された任意団体で、電力大手10社が会員となっており事実上の業界団体と言える。190人程度いる職員の大半は各社からの出向者で、2、3年程度で元の会社に戻るケースが多い。
池辺会長は昨年12月の記者会見でカルテル問題について「電事連は電力小売り自由化を踏まえ、価格や営業戦略などの競争情報を取り扱わないことにしており、全く関与・把握していない」と述べていた。
電力小売り全面自由化から7年。競争意識は一定程度浸透したが、依然として各社に縄張り意識がまん延している状況が浮き彫りとなり、公取委幹部は「競合会社との関係を断ち切り、業界の体質を一掃する時だ」と訴えている。【毎日新聞】