10日の仙台高裁判決は、東京電力福島第一原発事故の損害に対し、一審判決を覆して国の賠償責任を認めなかった。裁判長は判決理由で、国に対して厳しい言葉を次々と並べたものの、国の責任を否定した最高裁の判断に下級審が拘束される構図は崩れなかった。
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「津波によって重大事故が発生する危険を予見できた」「東電に事故対策を命じなかったことは、違法な不作為」「対策を命じていれば事故が起きなかった可能性は相当高かった。(津波が予見できてから)8年にわたり規制権限の行使を怠った国の責任は重大」
法廷で48分間かけて判決理由を読み上げた小林久起ひさき裁判長は、国の対応を断じる部分でひときわ声のボリュームを上げた。これまでにも別の裁判で、国や東電を厳しく批判してきた姿が重なった。
ところが終盤、言葉が止まる。そして、意を決したように核心部分を続けた。「しかし、(対策をしても)必ず事故を防ぐことができたと断定することまではできない」。小さな声で、国の責任を否定した。
仙台高裁前で「不当判決」などと書かれた紙を掲げる原告側弁護士=10日
仙台高裁前で「不当判決」などと書かれた紙を掲げる原告側弁護士=10日
判決後に記者会見した原告弁護団の米倉勉弁護士は「国の責任を実質的に認めながら、最高裁判決があるからやむをえず、事故は防げなかったとした。不思議な判決だ」と指摘した。原告団の伊東達也団長は「忖度そんたくした判決で残念。大きな津波が来たから仕方ないという判断が続けば、福島事故がなぜ起きたのかという問いが永遠に封じられる。戦い続ける」と憤った。
国は福島事故後、被災者への賠償基準「中間指針」をつくり、東電が迅速に賠償するよう指導する立場にある。しかし、東電が指針以上の賠償を拒否するケースが相次ぎ、少なくとも30件の集団訴訟が起きた。その間も国は指針を見直さず、昨年3月に指針を上回る賠償を東電に命じた7件の高裁判決が確定して、ようやく9年ぶりに指針を改定。被災者の救済を遅らせたのは、国でもある。
この日、小林裁判長は東電の被災者への対応について「危険を認識しながら経営上の判断を優先させ、住民の生命や安全をないがしろにした」と痛烈に批判。国に対しても「住民への危害を防ぐために規制権限を与えられている」と指摘した。東日本大震災と福島事故から12年を翌日に控える日に、国策として原発を推進してきた国と電力会社に、責任と自覚を強く迫る判決の言い渡しだった。【東京新聞】