原子力発電所の事故で放射性物質が漏れた際に服用して甲状腺 被曝を防ぐ安定ヨウ素剤の福井県内の配布率が、約4割と低迷している。2011年の東京電力福島第一原発事故を受けて配布が始まり、8割を超えた時期もあったが、使用期限が過ぎ、再配布が進まないためだ。原子力防災への関心の低下を指摘する声もあり、県は「受け取ってもらえるよう広報に力を入れたい」としている。
福島原発の事故を受けて国が策定した原子力災害対策指針では、原発から5キロ圏内の「予防的防護措置準備区域」(PAZ)の住民に事前配布するよう自治体に求めている。
県は、14年10月から敦賀、小浜両市、美浜、おおい、高浜各町にまたがるPAZ内の住民向けに説明会を開き、ヨウ素剤を配布。配布率は15年には80・6%に達した。使用期限(3年)を迎えた後の18年3月は63・8%だった。
再び使用期限(5年)を迎えた22年7月以降、配布率の低下が目立ってきた。県は住民の利便性を高めようと嶺南地域の薬局での配布も始めたが、同12月末時点で、PAZ内の住民9154人のうち、受け取ったのは41・2%(3771人)にとどまる。国は19年から対象を原則40歳未満としており、この年代に限ると39・2%(1163人)だ。
原子力防災に詳しい福井大の安田仲宏教授は、「福島原発事故から12年近く経過し、原子力防災に対する社会の関心が薄れているのではないか」と指摘する。
県は、今年1月末から40歳未満でヨウ素剤を受け取らない住民に対し、郵送による案内を始めた。県地域医療課は「万が一の原発事故に備え、できる限り手元に備えておいてほしい」と呼びかけている。
◆安定ヨウ素剤= ヨウ化カリウムが主成分の内服薬。被曝する前に服用すると、放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積するのを防ぎ、甲状腺がんの発生リスクを抑える効果があるとされる。その他の放射性物質による被曝に対しては避難や屋内退避などが必要となる。13歳以上は2錠、3歳以上13歳未満は1錠、3歳未満はゼリー状のヨウ素剤を服用する。
【読売新聞】