全国で唯一、運転開始から40年を超えて稼働している老朽原発の危険性を問うた京都、滋賀の住民らの思いに、司法は誠実に向き合ったといえるだろうか。
関西電力美浜原発3号機(福井県美浜町)は安全性が確保されていないとして、周辺住民が関電に運転差し止めを求めた仮処分で、大阪地裁は申し立てを退けた。
政府が原発の運転期間を「原則40年、最長60年」とする現行ルールから引き延ばす方針を示す中、40年超原発の安全性に対する初の判決として注目された。
地裁は、住民が示した原発の経年劣化に伴う危険度の高まりや、避難計画の欠陥について証明が十分でないとし、関電の主張をほぼ受け入れた。一方的に過ぎる判断ではないか。
住民側は「原発稼働期間を延長したい国の考えがある中、『結論ありき』で出した判決ではないか」と批判し、抗告を検討するという。
仮処分を申し立てたのは、美浜原発3号機の約10~80キロ圏内に暮らす福井、滋賀、京都の住民だ。同機は1976年から稼働する。
審理で住民側が老朽原発は設備や機器の劣化が進み、補修も困難と主張。運転は事故リスクを飛躍的に高め、想定内の地震でも放射性物質が拡散されて被ばくする危険性が増すとした。重大事故時の避難計画は、周辺の高浜、大飯両原発のそばを通るルートが設定され、実効性が乏しいと指摘した。
関電は地理事情を評価した「余裕のある耐震設計」とし、東京電力福島第1原発の事故を踏まえた新規制基準に適合していると反論。設備劣化などは的確に把握しているとした。
地裁は、新基準の審査で問題は認められず、関電の経年劣化対策や耐震性に問題はないと断じた。だが、根拠は原子力規制委や関電資料に基づき、原告が集めた知見を十分に考慮した形跡はうかがえない。住民の疑念や不安は置き去りで説得力に欠ける。
政府は先月、最長60年の運転期間について、大震災後の稼働停止期間を除外する形でさらに延ばす政策転換を打ち出した。
美浜原発3号機の停止期間は約10年のため、70年の運転が可能になる。まだ25年間も稼働できる勘定だが、本当に大丈夫なのか。原子炉の耐久性などは科学的に未知な部分が多いとされる。
原発稼働の拡大のみならず、新増設にまで前のめりな政府に、歯止めをかける司法や立法府の役割があらためて問われよう。【京都新聞】