全国有数の漁業生産量を誇る宮城県は、水産関係者のみならず県や県議会も東京電力福島第1原発の処理水海洋放出方針に反対の姿勢を鮮明にしている。主要輸出国による県産水産物の禁輸が続くなど原発事故の深刻な爪痕が残る中、新たな風評が上乗せされることへの県民の懸念が根強いためだ。自民党所属の外崎浩子宮城県議(前県議会副議長)は「県民の11年間の努力が踏みにじられることはあってはならない。放出反対に1㍉の変化もない」と訴える。
9月中旬、宮城県庁の講堂。処理水に関する「宮城県連携会議」で参集した国と東電の幹部を前に、村井嘉浩知事はこう語った。「あくまでも海洋放出には反対だ」。産業団体の代表者らからも放出を容認できないとの意見が噴出した。会合後、出席者からは処理水放出設備の工事着手を福島第1原発の立地自治体が了解したことについて「衝撃だった」との声も漏れた。
宮城県は海洋放出以外の処分方法の検討を国に求めるとの立場を貫いてきた。国民的な理解が得られぬまま処理水が放出されれば、産業に深刻な影響が及ぶ懸念があるためだ。村井知事は「県民の考え方が海洋放出に反対なので、最後まで反対であると言い続けたい」と強調。その上で「立ち止まっているうちに海洋放出が始まり風評被害が発生してしまっては困る」とし、対策の徹底を政府に引き続き求めるとした。
宮城県議会も同様の姿勢だ。福島県議会は国民や県民の理解醸成に向けた取り組みの強化を求める立場である一方、宮城県議会は2017(平成29)年9月と2020(令和2)年3月の2回、「放出反対」の意見書を全会一致で可決している。注目すべきは、政権与党である自民党の所属議員さえも全員が意見書の可決に賛成した点だ。復興政策を巡り、中央と地方の「ねじれ」が生じている。
「放出されれば風評被害が拡大し、基幹産業の水産業に大打撃となる。処分しないと保管するタンクにたまり続けてしまうことは理解しているが、容認はできない」。宮城県連携会議で国や東電と意見を交わしてきた外崎県議は複雑な思いを打ち明ける。
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「オール宮城」での強硬な反対姿勢は、宮城県と東電の従来からの関係性の薄さが背景にある―とみる向きもある。
宮城県は東電の電力供給エリアでない上、原発事故が起きる前は県内に営業所などが存在しなかった。過去の宮城県連携会議では、出席者から東電幹部への怒号が飛び交う場面も。ある宮城県関係者は「東電や監督省庁にとってはやりにくいだろう。だが、地元としては毅然と臨むだけだ」と話す。
一方、東電の高原一嘉福島復興本社代表は「廃炉を進める上で、処理水の対策を進めるのが不可欠だという点を理解いただけるよう努める」との姿勢だ。
宮城県幹部は国や東電の対応への懸念をあらわにする。「今は『何でも対策します』と言うが、放出が始まれば宮城県に来なくなるのではないか。要請に行っても『そういう約束はしていない』と言われてしまうのではないか」【福島民報】