欧州の電力供給を下支えしてきたフランスの原子力発電所の発電量が急減している。仏電力公社EDFによると、2022年の発電量はここ30年で最低に落ち込む見通し。不具合や従業員のストライキで原子炉の半分が運転停止している。フィンランドでも新原子炉の稼働が遅れている。本格的な冬の到来が近づき、欧州は綱渡りの電力供給を強いられている。
ロシアからの供給停止による天然ガスの不足は、欧州内の融通や在庫の積み上げなどでやや不安が和らいだ。欧州連合(EU)によると加盟国の備蓄率平均は容量の92%超に達しており、ドイツなどでガスを燃料とした火力発電が急に止まるリスクはいったん後退した。
一方でウクライナ侵攻に影響を受けない原発が新たな懸念要因となっている。EDFは3日、22年の原子力発電所の発電量を従来予想の280~300テラワット時(TWh)から275~285TWhに引き下げた。子会社のRTEが開示している発電量データによると1990年以降で最低にあたる。過去10年の平均も3割近く下回る。
もともと定期検査や不具合の発覚などにより、56の原子炉のうち半分近くが停止している。この秋に一部発電所の従業員が待遇改善を求めてストライキに入り、状況がさらに悪化した。仏テレビ局BFMTVによるとストの影響で8基の運転再開が延期された。
2023年も定期検査や修繕が続き、仏原発の発電量は例年を下回る見込みだ。EDFは300~330TWhと予想している。
フランスの発電量低下は欧州全体の電力供給の安定性にもかかわる。欧州では各国が常時電力を融通しあっており、多くの原発を持ち欧州最大の電力輸出国であるフランスが支える部分が大きいためだ。RTEによるとフランスの21年の純輸出量は43TWhに達し、英国やスイス、イタリア、スペインの電力供給を支えた。
「欧州各国はこれまでのようにフランスからの電力供給を頼りにできない」と仏シンクタンクIDDRIで欧州情勢とエネルギー・気候変動分析を担当するニコラ・ベルグマンス氏は指摘する。フランスが逆に電力輸入を必要とすることで「欧州の電力価格の一段の高騰と企業の生産抑制を引き起こす」(ベルグマンス氏)弊害もある。
ロシアからのガス供給停止を受けてドイツは脱原発を先送りし、既存原発の運転延長も容認する。足元では新たにフランスからガスを受け取る一方で仏への送電を強化している。フランスが電力輸出国から輸入国に転じたことで、エネルギー危機打開の方程式は一層複雑化している。
電力データ分析を手掛けるデンマークのエレクトリシティマップ社の22年1~9月の1時間ごとの送電状況解析によると、フランスでは電力輸入が輸出をおおむね超過する状況が続いた。例えば9月30日午前10時台には英国やドイツから電力を受け取り、電力輸入が輸出を6428メガワット上回った。同時間帯の仏国内の電力消費の1割強にあたる。
フィンランドでも10月、オルキルオト原子力発電所で新たに建設され試運転中だった3号機に不具合が見つかった。ロイターによると12月14日の予定だった本格稼働は同月27日に延期された。
3号機は今後、フィンランドの電力需要の14%を賄う見通しだ。政府系送電会社フィングリッドは8月、ウクライナ侵攻によって今冬は停電が起きかねないとの見通しを発表した際にリスク要因の一つとして同機の稼働の遅れを挙げていた。
フランスでは10月は暖かい日が続き、企業の節電努力もあって電力消費は通常より少なく済んだ。だが仏気象庁は11月から来年1月にかけては例年通り冷え込む可能性が高いとしており、ここからは暖房需要が増えそうだ。仏政府は引き続き大幅な節電を呼び掛けており、電力供給は予断を許さない状況が続く。【日本経済新聞】