「判決はショックだった。私たちの裁判はどうなるのか」。南相馬市鹿島区の住民約300人が国と東電に損害賠償を求め、福島地裁で争っている集団訴訟の原告の一人、多田穣治さん(76)は動揺を隠せない。最高裁の判決を受け、同種訴訟の関係者らにも波紋が広がっている。
「最高裁判決は、類似する主張で争っている訴訟に大きな影響を与える」。原子力法に詳しい一橋大大学院の下山憲治教授(行政法)はこう指摘する。
東京電力福島第1原発事故の避難者らが原告となり、現在も係争中の多くの集団訴訟が、最高裁で17日に判断が示された福島(生業(なりわい))など4件の集団訴訟と同様の主張をしているからだ。
最高裁判決では、原発事故の国の責任を認めず、「仮に防潮堤などを設置していたとしても、被害発生は回避できたとは言い難い」と結論付けており、後続する同種訴訟でも最高裁と同様の判断が示される可能性が高い。
南相馬市鹿島区の住民が原告となっている訴訟は、既に福島地裁でほとんどの審理を終え、今月末に結審するとみられる。原告の多田さんは「最高裁の判決を基に私たちの判決が示されるなら、到底望んでいるものにはならないだろう」と不安を口にした。
一方、下山教授は「今回の判決が国の責任に関して、最終的な判断を示したとはまだ言えない」とし、「重大事故時の対策など他の回避措置について争っている訴訟は、最高裁判決の影響が限定的になるのではないか」との考えだ。
また、下山教授は今後の原子力政策への影響について「福島の事故後に法制度も変わり、影響は限定的」としながらも「事故後の避難対策で、どの程度の安全対策を取るのか、今回の判決が参照される可能性がある」と強調した。
下山教授は「原発を利用して電力供給を続ける限り、原発事故の発生リスクをゼロにすることはできない。国はそのリスクを国民が受け入れるまでに下げ、万一事故が起きても被害を防ぐ十分な避難対策を準備することが必要だ」と指摘する。
原発事故から約11年3カ月の月日を要して、国の責任について初めて示された最高裁の判決。その余波を単なる影響にするのか、教訓とするのかは今後の国の姿勢にかかっている。【福島民友新聞】