東京電力福島第一原発で働いていた男性が急死したのは、東電などにも責任があるとして、遺族が損害賠償を求めた控訴審判決が19日、仙台高裁であった。小林久起裁判長は東電の救急医療体制の不備を指摘したが、過失は認められないとして請求を棄却した。
福島県いわき市の猪狩忠昭さん(当時57)は、原発構内の工場で自動車整備をしていた17年10月、致死性不整脈で死亡し、労働基準監督署が過労死による労災と認定した。一審判決は勤務先に計約2480万円の支払いを命じたが、東電と元請けへの請求を棄却したため遺族が控訴していた。
今回の判決は、工場に固定電話がなく、猪狩さんを搬送した作業員も携帯電話を持っていなかったことに言及。医療室に事前連絡がなかったため入室前に放射線のスクリーニング検査の準備ができず、診察が数分遅れたと指摘した。「厳しい環境の中で廃炉作業に従事する多くの労働者の健康と安全のために、速やかに救急医療が受けられる体制を整備すべきだ」とした。
一方で、国のガイドラインでは検査の時間短縮までは求められていないなどとして、東電の過失は認められないとした。
東電によると、17年ごろは私物の携帯電話の持ち込みは自由だった。遺族側によると、放射線被曝(ひばく)の可能性が高い現場に持ち込むのは心理的抵抗が強く、休憩場に置いていく作業員も多かった。東電は18年以降、テロ対策強化で携帯電話は原則持ち込み禁止にし、今は作業現場1カ所につき1台の携帯電話を貸与しているという。【NHK】