原子力規制委員会は18日、東京電力福島第1原発でたまり続ける処理水を海へ放出する設備の設計や手順を盛り込んだ「実施計画」について、審査結果をまとめた審査書案を了承した。今後、意見を公募する「パブリックコメント」を6月17日まで実施。早ければ7月中にも正式に認可され、規制委の審査は終了する。東電は地元自治体の事前了解が得られれば、放出に必要な海底トンネルなどの設備工事を始める予定だ。ただ、漁業者は放出に反対の立場で、難航も予想される。
処理水を巡っては、政府が2021年4月に海洋放出の方針を決定した。その後、東電が実施計画の審査を21年12月に申請していた。東電は23年春の海洋放出開始を予定している。処理水は敷地内のタンクで保管され、容量が満杯の137万トンに達する時期は23年夏から秋とみている。
実施計画によると、海へ放出する処理水は、原発で生じる汚染水から技術的に取り除くのが難しいトリチウム以外の63種類の放射性物質について、濃度を国の基準値未満に下げる。放射性物質は多核種除去設備「ALPS(アルプス)」などを用いて除去し、その上で大量の海水で薄め、トリチウム濃度が国の基準の40分の1(1リットル当たり1500ベクレル)未満となるよう調整。その後、新たに建設する海底トンネルを通して沖合約1キロの海底に放出する。
放出する水は、放射性物質濃度が常に基準を下回っていることを確認するため、薄める過程で処理水と海水の流量を常時監視する。放出開始後しばらくは、薄めた水の放射性物質濃度を放出前に直接確認するという。処理水の放出終了までには数十年かかる見通し。
一方、処理水放出に伴う風評被害対策として、実際に放出されるのと同様の水でヒラメやアワビなどを9月ごろから飼育して、健康状態、ふ化率、生存率などのデータを公開する。
規制委の更田豊志委員長は記者会見で「時間をかけ丁寧に審査をした」と振り返り、計画の理解促進について「審査書の内容にとどまらず、東京電力は工夫して発信していくべきだ」と述べた。東電は「一人でも多くの方に廃炉の取り組みについてご理解いただけるよう、全力で取り組む」とのコメントを発表した。
東電は処理水の関連施設について、新設や増設にあたらないとする「準備工事」を既に開始しており、放出前の処理水を入れるための縦穴を掘っているほか、5月から放水口となる場所の海底の整地も始めている。【毎日新聞】