東京電力福島第一原発(福島県大熊町、双葉町)の1号機原子炉で予定されていた内部調査が、ロボットの不具合で開始できずにいる。溶け落ちた核燃料(デブリ)が残る格納容器内は放射線量が高く、人が近づけない。遠隔操作を余儀なくされる作業は、これまでもトラブルが連続。事故から11年が近づく中、高い壁が行く手を阻み続ける。
◆甘かった事前準備
「原因が分からない。対策の見通しも不明で、調査の再開時期は未定です」
13日の記者会見で、東電の広報担当者はあいまいな受け答えに終始した。当初計画から2年以上遅れた1号機の内部調査は、12日に始まるはずだったが、出だしからつまずいた。
メルトダウン(炉心溶融)した1~3号機のうち、デブリとみられるものが確認できていないのは1号機だけ。今回の調査は、ロボットが6種類あって多機能な上、調査に約7カ月かけるなど、これまでの遅れを取り戻そうと盛りだくさんな計画となっている。
最初に投入する水中ロボット(直径25センチ、長さ111センチ)は調査ルートをつくる。直径30センチの輪(ガイドリング)を取り付け、後続機がその中を通ることでケーブルが絡まないようにするため、広報担当者は「調査にとって必須」と強調する。
ところが、事前の準備が甘かった。事前試験は各機器の動作確認にとどまり、同時に動かして発生した線量計の不具合などに、すぐに対応できなかった。
◆過去には「置き去り」も
原因特定には時間がかかる見通しだ。同様の不具合が他のロボットでも起きれば、格納容器内の映像や立体的な構造把握、水中にある砂状の堆積物の採取などの計画が進まず、頓挫しかねない。
複雑な装置が効果を上げにくいことは、これまでの調査から分かっている。2017年に3号機の格納容器内でデブリとみられる堆積物を撮影した水中ロボットは、今回に比べて長さが4分の1程度で単純な構造だった。主要な目的を撮影に絞ってもいた。
2号機でデブリと断定できる堆積物の撮影に成功した18年の調査は、ロボットではなく、作業員が先端にカメラを付けたパイプ(長さ13メートル)を挿入。この前年には、カメラ付きの「サソリ」と呼ばれるロボットを投入したものの、堆積物に乗り上げて回収できずに炉内に残ったままだ。
◆屋外では「人力」で対処できるが…
遠隔操作の作業は、原子炉がある建屋の外でも常に困難と隣り合わせだ。
地震で倒壊の危険があり、高濃度に汚染されていた1、2号機建屋そばの排気筒を、約60メートルと半分の高さにまで切断した作業(19~20年)では、大型クレーンでつり上げた切断装置ののこぎりの刃が筒に挟まり、動けなくなった。この時は作業員が高さ110メートルの筒頂部に設置した切断装置にまでクレーンで上って電動工具で切る、「人力」でトラブルをしのいだ。
1月下旬には、この排気筒につながる汚染配管の切断も予定する。当初は4カ月前に始まるはずだったが、遠隔操作する切断装置に不具合があり、クレーンも故障して計画が遅れた。
年内には2号機でデブリ採取が予定されている。原子炉内でトラブルが起きても、人力には頼れない。【東京新聞】