関西電力の歴代役員らによる金品受領問題が発覚してから9月で2年になる。経団連会長などを歴任し、昨年6月に関電会長に就いた榊原定征氏が朝日新聞のインタビューに応じ、ガバナンス(企業統治)改革は「まだ道半ば」と述べ、企業文化の改革を進める考えを示した。一方、事業では小型炉など最新の原子力発電所の建設に前向きな姿勢を示し、国が新増設や建て替えの方針を打ち出すべきだと指摘した。
――金品受領問題などを受けた関西電力のガバナンス(企業統治)改革は進んでいますか。
「昨年6月、(社外取締役の権限が強い)指名委員会等設置会社へ移行したが、これは非常によく機能している。取締役会では、企業経営者や弁護士、大学教授の社外取締役らの活発な議論が進んでいる。人事や監査の委員会も社外取締役が委員長で、委員には社長も入っていない。社会や株主目線の監視が強化された」
「私が会長職に就いて最も重要と考えるのは信頼回復だ。そのために、様々な経営判断の場面で透明性の確保を強く訴えている。今までのように、一部の社内役員で物事を決めてしまうようなことが絶対に起きないようにする。その風土は定着してきていると思う」
「業務改善計画にもとづいて設置したコンプライアンス委員会や内部通報、研修制度などの仕組みも動き始めている。社外に対して5月に行った企業イメージ調査では、『関西電力を信頼できる』という回答が6割近くを占めた。一時は3割まで急落したが、金品問題発覚前とほぼ同水準まで回復した。社会からも一定の評価をいただいたと思っている」
――大手電力会社が互いに顧客獲得を制限するカルテルの疑いで公正取引委員会の調査を受けるなど、経営体制の刷新後に明らかになった問題もあります。
「そういった事案は必ずコンプライアンス委員会に報告され、その結果が取締役会にも伝えられる。コンプラ委は内部通報制度を100%管掌しており、末端の色々な情報がコンプラ委、最終的に取締役会に集約されていく仕組みになっている」
――改革で不足している点はありませんか。
「形はできて機能しているが、それが企業文化として根付くことが大事だ。関電はずっと成長し続け、いわば上意下達の文化がある会社だ。上が方針を決め、下の人が従う。しかし、今後は事業環境が変化し、競争も激しくなる。もっと社員全員が『会社を良くするために』という意識をもって提案するボトムアップの会社、自由闊達(かったつ)の雰囲気をつくることが望ましい。その文化が根付けば、形も実質もガバナンス改革が進んだと言えるのではないか。その意味ではまだ道半ばだ」
――株主総会では報酬補塡(ほてん)問題などを受けて、全取締役の報酬の個別開示を求める株主議案が出され、3割を超える賛成を集めたものもありました。
「私も透明性は経営の一番の根幹だと考えており、必要な情報を開示するのは基本原則だ。顧問の報酬など、開示すべきものはしようという流れになっている。昨年から今年にかけ、関電の情報開示の制度は相当改善してきた。他社よりも進んでいると思う」
――エネルギー業界をとりまく環境は変化しています。再生可能エネルギーへの取り組みは十分ですか。
「経済産業省の新しいエネルギー基本計画案は、再エネ比率を2030年に36~38%とした相当チャレンジングな目標だ。関電は30年代に国内外で600万キロワット分の再エネ電源を確保することにしており、他の電力会社と比べても一番高い水準だ。達成もできると思っているが、それが十分かどうかは今後さらに詰めていく必要がある」
「再エネとは別に関電は原発を7基持っている。安全に、地元の理解を得ながら動かしていく。7基が動くと、年間で国内の二酸化炭素排出量が約2%削減でき、脱炭素化に非常に大きく貢献する。水素も重要な資源で、製造や輸送、使用まで一連のチェーンに関わっていく」
――エネ基案では原発の新増設や建て替えは明記されませんでした。
「国の方針がないと、企業、産業界は動かない。新増設や建て替えについて明確に方針を出してほしいという希望はある。ただ、今回の案で電源構成の比率が明示された点は評価したい。高速炉や小型炉は国際連携のなかで開発、実証するという方向も出ている。それを進める中で、最終的には新増設や建て替えにつながっていくのではないか。むしろ事業者としてはつなげていきたいと思っている」(聞き手・加茂謙吾)
◇
金品受領問題などの不祥事とガバナンス改革 2019年9月、関西電力の歴代役員らが、原発のある福井県高浜町の元助役から金品を受け取っていたことが発覚した。受領者は子会社を含め計83人で、現金や商品券など総額約3億7千万円相当に上った。第三者委員会の調査は、元助役が自らの関係企業への情報提供や工事発注を要求し、実際に関電が発注したケースもあったと認定。金品提供の主な目的が、それらの関連企業から経済的利益を得る構造を維持することだったとした。
これとは別に、第三者委の調査で、関電が東日本大震災後の電気料金値上げに伴って減額した役員報酬の一部を後から補塡していたことも発覚。社外弁護士らでつくるコンプライアンス委員会の調査によると、役員の退任後に嘱託として任用して減額分を一律に穴埋めし、18人に計約2億6千万円が支払われた。
経済産業省は20年3月、金品受領問題をめぐり、関電に対し電気事業法に基づく業務改善命令を出した。関電は同月、再発防止策などを記した業務改善計画を提出。同年6月の株主総会では、人事、報酬、監査を社外取締役中心の各委員会で担う「指名委員会等設置会社」へ移行し、会長に榊原定征氏が就任した。社内取締役の報酬について、上場企業に開示義務のある1億円を下回った場合でも、個別に開示するルールなどを設けた。
【朝日新聞】