「安全、安い、クリーン」はウソ
【時事通信社】
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小泉純一郎元首相にじかに話を聞くのは約5年ぶりだった。2016年5月、当時のオバマ米大統領が広島を訪問する前日、小泉氏は講演後、記者団に「核廃絶よりも原発ゼロの方が易しい」と語っていた。しかし、脱原発への進展はなく、政府は原発再稼働を推進している。「原発ゼロ、やればできる」「原発ゼロ、生きているうちに」。かつて小泉氏の講演を記事にした。東京電力福島第1原発事故から10年余。原発再稼働を批判し、脱原発を訴え続ける小泉氏に改めて今の思いを聞いた。
(時事総合研究所代表・村田純一)
◆「私は間違っていた」
―初めて話を聞く読者のために「原発ゼロ」を主張する理由から改めて伺います。
私は総理大臣在任中、原発は日本にとって必要だと(思っていた)。日本の原発は安全で、コストが安い、二酸化炭素(CO 2)を出さないクリーンエネルギーだと、経済産業省をはじめ原発推進論者の主張をうのみにしていたなあ。日本は資源が少ないしね。
ところが、10年前(2011年3月11日)に東日本大震災と福島第1原発事故があった。当時、私はもう政界を引退していた。テレビに映った津波、ひどい事故を見て、原発は安全じゃないと思い、いろんな本を読んで勉強した。
それで分かったことは、原発をつくる前も、学者の中に原発はやめた方がいいという論者がいた。そういう声は無視して、資源がない、大事なエネルギーだということで推進した。その原発推進論者が言っている「原発は安全、コストが安い、クリーンエネルギーだ」ということは全部ウソだと分かった。
今まで原発は必要だと言ってきた私が、どうやって説明したらいいか。そうだ。論語に「過ちて改めざる、これを過ちという」という言葉がある。「過ちては改むるに憚(はばか)ることなかれ」という言葉も思い出して、改めようと。以来、講演を頼まれると、原発の話を中心に「私は間違っていた」「日本は原発を使ってはいけない」と話し始めた。
―過ちに気づいた。
そう。人間には過ちがあるんだ。
◆百聞は一見にしかず
―フィンランドで建設中の核廃棄物最終処分場「オンカロ」視察(13年8月)のエピソードは有名ですが、そもそもなぜ行こうと思ったのですか。
原発は「核のゴミ」(高レベル放射性廃棄物)を出す。世界にたった一つの最終処分場をフィンランドがつくっていて、日本にはない。現実に見るのと聞くのとでは大違いだ。百聞は一見にしかずだから。経団連幹部の人を誘って行った。フィンランドのヘルシンキ空港を降りて、またジェット機に乗り換えて、オンカロのある岩盤の島へ船で行った。
そこは地震もない、津波もない、火山もない。地下400メートルぐらいまで、らせん状のマイクロバスが通るぐらいの道路で下りていく。見学者は多い。2キロ四方の広場があって、そこに頑丈な円筒形の鉄の筒に核のゴミを入れて埋めるという。
灰色の岩盤に黒い染みがところどころあるんだよ。この染みが水となって漏れてこないか、最後の審査が残っていた。あの染みが千年、万年たって水が漏れたら、せっかく核のゴミを埋めたのに環境破壊になる。まだ完成していない。
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日本だったら、400メートルも掘ったら温泉が出てくるんじゃないかと思ってね、日本ではできないと思った。
地方自治体に交付金をあげるから、最終処分場の選定地として手を挙げてくださいといっても、そんな地方自治体は一つも出てこないよ。住民が反対し、日本では無理だ。
―そういえば、処分場候補地として手を挙げた北海道寿都町(すっつちょう)でも講演しましたね。
やった。どこへでも行くよ。
《※北海道の寿都町と神恵内(かもえない)村は昨年、最終処分場の選定の第1段階に当たる「文献調査」に応募した。一部住民は強く反対しており、小泉氏は20年11月3日、寿都町で開かれた住民団体主催の講演会で講演し、政府の原発再稼働方針を批判した。》
―放射能の危険性が除去されるためには10万年は必要とか。
10万年たたないと放射能の危険性は減らない。オンカロの最終処分場の入り口は、核のゴミを埋めた後、閉めなければならない。その時、入り口に「絶対にここの岩盤の扉をあけてはいけない」と書きたいが、それを何語で書くか(笑)。千年、万年後にフィンランド語も英語も変わるかもしれないと真剣に考えていた。
◆安倍首相も菅首相も「ダメだな」
―「3・11」から10年間、原発に頼る政府のエネルギー政策は無策との批判もある。
もし事故がなかったら、日本の原発は54基から100基体制にしようと思っていたんだ。経産省は「計算」違いした(笑)。事故後、54基あった原発は2011年3月から13年9月まで、2基しか動いていない。その後約2年間ゼロ。北海道から九州まで1日も停電はなかった。日本は原発ゼロでやっていけることを証明した。
―以前(2015年3月)、安倍晋三前首相に原発をやめるよう進言していたが。
「だまされてるぞ。経産省にだまされているんだぞ」と言っても、苦笑していたよ。
―その後、安倍さんに言っても、もう無理だと諦めたんですか。
まあ、ダメだなと思った。
―菅義偉首相に原発ゼロについて何か言ったことは。
言ってないけどさ。まあ、ダメだな、彼も。(安倍政権で)官房長官やってるだろ。分からないんだ。どうして、分かんねえのかなあと思って…。
―菅首相は脱原発には関心ないのでは。
不思議だよなあ。
―低迷する内閣支持率も原発ゼロの方向にかじを切れば一気に上がるかも。
そう。やればいいのに。原発がなかったら停電になる、工場だって大変だと言われたが、そうじゃなかった。2013年9月から2年近く、原発ゼロで何も問題なかった。原発ゼロでも大丈夫だということを証明したんだ。
《※2013年9月15日、関西電力大飯原発4号機(福井県)が定期検査のため運転を停止し、12年5月以来、稼働中の原発がゼロになった。15年8月11日に九州電力川内原発1号機(鹿児島県)が再稼働するまで、国内で原発は運転されず、1年11カ月の「原発ゼロ」が続いた》
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