原子力規制委員会は7日、九州電力に対して玄海原子力発電所(佐賀県)で想定する地震の最大の揺れを引き上げる必要があるとの見解を示した。4月に地震の揺れの想定方法を厳しくしたことにもとづく措置で、電力会社に見直しを要請するのは初めて。他原発でも見直しを迫られれば、耐震補強工事などの負担が増す可能性がある。
想定される最大規模の揺れは基準地震動と呼ばれ、耐震化など地震対策の前提になる。規制委は4月、原発周辺の活断層などによる地震に加え、過去に発生した全国の地震データ約90件の記録を使って揺れを見積もる方法を導入した。
新たな評価が従来の想定を上回る場合、電力会社は基準地震動を見直さなければいけない。九電は玄海原発について基準地震動の変更は「不要」とする文書を4月に提出したが、7日に規制委はその主張を正式に却下した。九電は想定を見直して3年以内に規制委の再審査に合格する必要がある。
ただ基準地震動の見直しは小幅なものにとどまる見通しで、九電幹部は「追加工事は必要ないと思っている」との見解を示している。
基準地震動を厳しくみる追加規制は、全国の原発を対象にしている。規制委は4月、再稼働中や安全審査に合格済みの原発について基準地震動を見直す必要が生じるかどうかを9カ月以内に回答するよう求めた。
すでに九電の川内原発(鹿児島県)と日本原子力発電の東海第2原発(茨城県)は従来の揺れの想定を変える方針を規制委に報告している。今後規制委が審査を通じて引き上げ幅の妥当性や、設備の耐震工事の必要性を判断する。
変更は不要と回答した関西電力美浜原発(福井県)や東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)などは、規制委が電力会社の判断を評価する作業をしている。安全審査に合格していない原発も今後の審査で新評価方法を加味して基準地震動を決めることになり、影響は広がる可能性がある。
2011年の福島第1原発事故の反省を踏まえてつくられた新規制基準では「バックフィット」原則を導入した。地震や津波、火山に関連した新たな科学的知見が明らかになれば電力各社に追加対応を迫る仕組みだ。安全審査に合格し、運転認可を受けた原発に対しても強制的に適用できる。更田豊志・原子力規制委員長は「バックフィットは継続的な改善を進める上で非常に重要で強力な手段だ」と強調する。
バックフィットによる追加規制はテロ対策施設の設置や火山灰対策など多岐にわたる。今回の基準地震動にとどまらず規制が強化されればさらなる追加対策が必要になるケースもあり、原発の発電コストが膨らむおそれもある。【日本経済新聞】