東京電力福島第1原発事故で福島県から新潟県への避難を余儀なくされたとして、237世帯801人の住民らが国と東電に計約88億5500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、新潟地裁は2日、東電に対し、原告636人に計1億8375万8600円を支払うよう命じた。国への請求は棄却した。原告側は不服として控訴する方針。
新潟訴訟の原告数は、福島訴訟以外では最大規模。原告側弁護団によると、全国で約30件の同種訴訟が起こされ、国が被告となった16件のうち、国の責任を認めなかったのは8件目となった。
判決理由で篠原礼裁判長は、国は2002年に公表した地震予測の「長期評価」などに基づき、津波を予見できたと指摘。一方、「具体的な危険性を根拠づける知見は十分でなく、予見可能性の程度は低いか、一定程度だった」とした上で、事故を回避できたとは認められないと結論付けた。
原告らの損害に関しては、原発事故により避難し、職業や学校生活などに大きな変化を強いられたなどとして「多様な精神的苦痛を被った」と認定。自主避難の合理性と相当性を認めた。
賠償は原告636人に対し、請求の一部を認めた。避難指示等区域内の原告に対して1人当たり16万5千円~935万円、自主的避難等対象区域内の原告に対しては1万1千円~33万円とした。原告側弁護団によると、一部認定された原告の大半は自主避難者が占め、大人1人当たり約23万円のケースが多い。
判決後、記者会見した遠藤達雄弁護団長は「被害救済をないがしろにした判断と言わざるを得ない。引き続き、妥当な賠償を求めて闘う」と述べた。
東電は「ご迷惑とご心配をお掛けし、心からおわび申し上げる。判決内容を精査し、対応を検討する」とコメント。原子力規制庁は「国への請求が棄却されたと承知している。事故を踏まえて策定された新規制基準への適合性審査を厳格に進め、適切な規制を行っていく」とした。
新潟訴訟は、13年7月の第1陣を皮切りに第4陣までが提訴。20年10月に結審し、提訴から判決まで約8年を要した。
◎賠償制度の見直し不可欠
東京電力福島第1原発事故で国の責任を認めなかった2日の新潟地裁判決は、原発事故被害者の苦しみを深めたといえる。原告801人が求めたのは国と東電の責任の所在と損害賠償だが、訴えの根底にあるのは一方的で被害の実態に向き合わない賠償ルールへの怒りだ。判決で認められた損害額は「少額過ぎる」(弁護団)。このルールこそ改めなければ、被害者の心は救われない。
原発事故の賠償ルールは、東電が国の指針を基に支払額や対象を決める。被害者が東電に直接請求し、基準内で支払われる。基準にない賠償を求める場合は、国の機関に裁判外紛争解決手続き(ADR)で和解の仲裁を申し立てる。
例えるなら国と東電が作った法律に基づき、両者が裁判長も務める法廷で被害者は賠償を求めているようなものだ。
さらに被害者の範囲は国の避難指示区域の線引きに基づく。本県にはこの区域外からの自主避難者が多く、新潟訴訟の原告も約8割を占める。東電がこれまでに慰謝料として支払ったのは、避難した場合大人1人12万円にとどまる。地裁判決は自主避難者の大人1人当たり約23万円の支払いを命じた。しかし、弁護団は「苦痛を適切に評価していない」と反発する。
また、判決は原発を推し進め、被害者を区域内外に分断した国に対し、事故の責任はないとした。原発事故被害者の落胆は計り知れない。
原発事故の被害者はそれぞれに失った大切なものがある。土地や家、家族、仕事、友人、故郷の絆-。釣りや山菜採りといった生きがいや喜びも奪われた。
国と東電は柏崎刈羽原発の再稼働を掲げ続けている。現状、被害者に寄り添った賠償の仕組みはない。原発避難者訴訟と原発事故の賠償ルールは、新潟県民にとって決して人ごとではない。【新潟日報】