原発の運転期間を原則40年とした「40年ルール」の意味が問われている。老朽化した原発は安全性への懸念が拭えない。運転の延長はあくまで例外であると再確認すべきだ。
福井県内で運転開始から40年を超える関西電力の原発3基の再稼働に、地元の杉本達治知事が同意した。稼働40年を超える原発が運転されるのは40年ルールの下では初めてとなる。
経済産業省や電力業界は、運転期間の延長を他の原発にも広げる構えだ。原発の運転には、放射性廃棄物の処分をどうするかなど課題が多い。安易な運転延長には、脱原発を望む人に限らず国民全体の理解は到底得られないと考えるべきだ。
東京電力福島第1原発事故の反省から、安全性向上のために設けられたのが40年ルールだ。ただし原子力規制委員会の認可を受ければ、1回だけ最長20年延長できる例外規定がある。関電の3原発は2016年にこの認可を得ており、今回の杉本知事の同意で手続きが整った。
杉本知事は使用済み核燃料の県外保管の候補地を示すよう関電に求めてきた。この点を棚上げして見切り発車したのはどういうことか。老朽原発の再稼働に対する不安は隣県にも広がっている。知事は意思決定のプロセスを丁寧に説明してほしい。
今回の運転延長を巡り、経産省は最大50億円の新たな交付金制度を打ち出し、地元に働き掛けた。原発立地地域へのあからさまな利益誘導と言える。決して好ましい手法ではない。
政府は気候変動対策で、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を「50年までに実質ゼロにする」との目標を新たに掲げた。その実現に、運転中に二酸化炭素を出さない原発を最大限活用するのが経産省のシナリオだ。
現在策定中のエネルギー基本計画の議論では原発の新増設に加え、米国に倣い80年運転を認めるよう主張する専門家がいる。安全性より経済性が優先され始めてはいないだろうか。
長期運転に道を開いた米国でも実際の運転はまだ50年を超えた程度であり、継続的な安全性の検証が不可欠だ。長期の運転認可を得ながら採算が合わず運転を断念した原発もある。
福井県と関電の動きに呼応するかのように、九州電力の池辺和弘社長は24年以降に運転40年を迎える川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の2基の運転延長を検討すると表明した。
その大前提に安全性の確認があることは言うまでもない。
老朽原発の延命は「原発依存度を可能な限り低減する」という国の方針と異なる。脱炭素は原発ではなく、将来性ある再生可能エネルギーで実現したい。【西日本新聞】