東京電力ホールディングスの小早川智明社長は18日の衆院経済産業委員会と原子力問題調査特別委員会の連合審査に出席し、柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)のテロ対策の不備を改めて謝罪した。今回の不祥事で同発電所の再稼働が一段と遠のくことは避けられない。東電の経営再建やエネルギー政策への影響は必至だ。
「大変なご心配をおかけし、深くおわび申し上げる。徹底的に原因を究明し、抜本的な対策を講じる」。小早川社長は17日の参院予算委員会に続き、18日の国会でも謝罪を重ねた。
同原発を巡っては、原子力規制委員会が16日、発電所内の監視装置が長期間にわたり故障していたことを明らかにし、外部から侵入を許す恐れがあると指摘。4段階ある安全上の重要度のうち最も重い評価を下した。
東電は福島第1原発の廃炉などで約16兆円を負担することになっている。柏崎刈羽原発の再稼働はその費用の捻出に欠かせないとみられている。1基あたり年およそ1000億円の利益改善効果があるとされる柏崎刈羽原発を欠けば、経営の立て直しはままならない。規制委の更田豊志委員長は再稼働に必要な追加検査には1年以上かかる可能性を示しており、年内の再稼働は厳しい情勢だ。
柏崎刈羽原発の再稼働は見通せない事態になっている
東京電力HDは一連の不祥事の対応策として、社外有識者の助言を受けるほか、原子力・立地本部長や新潟本社代表などを柏崎刈羽原発に常駐させることにした。小早川社長は18日に記者会見し、「経営が一枚岩になり、現場と一体となって調査と対策を進めなければ発電所の存続はありえないんじゃないかと判断した」と話した。
エネルギー政策への影響も懸念される。国は今夏にも新しいエネルギー基本計画を策定する方針で、原発政策は重要な論点の一つ。技術や人材を維持する観点から経済界はリプレース(建て替え)や新増設の明記を強く求めている。
ただ柏崎刈羽原発については他人のIDカードを使った中央制御室への不正入室も明らかになるなど不祥事が相次いでいる。地元の新潟県では東電への不信感が高まっており、再稼働の同意が得られる状況とはほど遠い。
原発は運転時に二酸化炭素(CO2)を排出しないこともあり、脱炭素社会の実現に向けて一定規模の利用は避けられないとの見方もある。経済産業省は東電に徹底した原因究明と再発防止策を求め、再稼働を進めるスタンスは維持する。原子力の活用に向けた議論も続ける考えだが、原子力政策を巡る不信感は高まる一方で、説得力のある形で必要性を示す努力が欠かせない。【日本経済新聞】