原子力発電所の使用済み核燃料を一時保管する中間貯蔵施設を巡り、電気事業連合会は17日、青森県むつ市にある施設を大手電力各社で共同利用する案を梶山弘志経済産業相に報告した。実現への道筋はなお不透明とはいえ、最も恩恵を受けそうなのが関西電力だ。運転開始から40年を超える原発3基で目指してきた再稼働の追い風となる。
関電は全ての原発を福井県内で運営している。東日本大震災後には高浜原発(高浜町)3、4号機と大飯原発(おおい町)3、4号機の計4基を再稼働してきた。さらに、運転開始40年超の高浜1、2号機と美浜原発(美浜町)3号機で再稼働を目指している状態だ。
40年超の3基が再稼働すれば、1基あたり月25億円の費用圧縮効果を期待できる。加えて、発電時に化石燃料を使わず二酸化炭素(CO2)を排出しない利点もある。足元では新型コロナウイルスの感染拡大で経済活動が低迷し、電気の利用が減少。関電の2021年3月期の連結純利益は900億円と前期より31%減る見込みだ。少しでも原発の稼働が増えれば利益に貢献する。
目標の実現に向けて最大の焦点が中間貯蔵施設の動向だった。福井県の杉本達治知事が再稼働に同意するかを判断する前提として、県外の建設候補地を20年内に明示するよう求めていたためだ。電事連が共用案を打ち出したことで、関電は青森県むつ市を候補地として福井県側に提示できるようになった。福井県が40年超原発の再稼働を判断する入り口に立つ条件が整う。
もっとも、乗り越えるべきハードルは残っている。まずは青森県やむつ市との交渉だ。18年にはむつ市の施設を巡る報道が先行し、むつ市長が反発した経緯がある。今回は電事連が交渉の前面に立つとはいえ、実現までの道筋には曲折が予想される。
福井県側も同様だ。40年超原発の再稼働には、県と立地自治体の両方で首長と議会の同意が必要になる。今のところ、同意を決めたのは高浜町と美浜町の議会だけだ。残る同意を得るためには、19年に発覚した金品受領問題からの信頼回復も引き続き求められる。
原発の使用済み核燃料は高熱を発するため、大半を原発内の貯蔵プールで冷やしている。関電の場合は7基全てが稼働すれば、今後5~9年程度でプールの容量を超えると試算され、これに代わる中間貯蔵施設の確保が課題となっていた。
他の電力会社ではプールの貯蔵能力の拡大には、原発の敷地内を活用するケースが一般的だ。ただ、使用済み核燃料が施設に留め置かれる懸念もあり、福井県では西川一誠知事(当時)などが県外設置を求める考えを表明してきた。
関電は17年に、西川知事(同)から原発再稼働の同意を得るため、岩根茂樹前社長が「18年中に県外候補地を選ぶ」と約束。だが、18年末に明示時期を「20年を念頭に」へ先送りした。その後の2年間で「最優先すべき課題」(森本孝社長)に据えて準備を進めていた。【日本経済新聞】