東京電力柏崎刈羽原発7号機が来年9月末までに再稼働しない場合、新潟県に交付される電源交付金が2022年度に約3・7億円(20年度との比較)減額される見通しであることがわかった。国の審査を終えても動かない原発の交付金を大幅に減らす仕組みが導入されたためで、専門家は地元で安全に関わる手続きが続く場合は、審査終了後も交付金が減額されない措置を検討すべきだと指摘する。
減額されるのは、原子力発電所など発電施設がある自治体への「電源立地地域対策交付金」の一部。発電量に応じて交付額が決まるが、停止中の原発でも原子力規制委員会の審査が続いていれば、「施設の安全確保のための運転停止」として「稼働中」とみなし、交付金が支払われていた。
それが16年の規則改正により、審査終了後に再稼働しない場合は、みなし稼働率が徐々に下げられ、9カ月後には稼働率ゼロとなり、交付金が大幅に減額される。経済産業省資源エネルギー庁の担当者は「原子炉の運転実績に応じて交付金を支給するために制度設計した」と趣旨を説明する。
柏崎刈羽原発では、10月30日までに7号機の「保安規定」などすべての審査が終了。再稼働に向けた手続きは地元同意のみとなった。一方、県による「三つの検証」が続いており、花角英世知事は検証結果が出るまでは再稼働に関する議論は始めない意向だ。検証結果は県議会と県民に示す考えで「地元同意」の可否や時期は見通せていない。
現状のまま再稼働しない状態が続いた場合、来年4月末ごろからみなし稼働率が下げられ、7月末ごろには稼働率ゼロとして交付金が算定される。県の試算では、22年度は約3・7億円減額されるという。
職員給与の削減や核燃料税の引き上げで収支改善に取り組んでいるが、現状でも県の財政は厳しい。県の財政担当者は「再稼働するかどうか見通せない。財政への影響はまだ考えていない」とする。安全性などを議論する県独自の検証が続いていることを念頭に、県は政府への要望活動で交付金を減額しないよう毎年要請してきたが、経産省は「検討中」としている。
柏崎市と刈羽村も減額の可能性は認識しているが試算額は示していない。柏崎市の担当者は「県の検証委員会が続いており状況を見守っている」、刈羽村の担当者は「減額幅は試算中」としている。(長橋亮文)
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電源交付金は原発立地自治体にとって公共施設の整備にとどまらず、人件費などにも充当でき使い勝手の良いお金だ。一方、もともと裕福でなかった自治体が、行政サービスを維持するために依存している構造もある。県内では様々な名目で交付されている。
18年8月に刈羽村で開かれた毎年恒例の「ふるさとまつり」。新潟を中心に活動するアイドルグループ「Negicco(ねぎっこ)」やアニメソングのライブ、花火大会があり5千人弱の村に約8千人が来場した。このイベントに電源交付金から「地域活性化措置」の名目で880万円が投じられた。事業の評価報告書には「地域おこしやコミュニティー意識の醸成が図られた」とある。
他にも、冬は豪雪に見舞われ交通が不便な長岡市小国町の診療所には医師や職員の給与、患者の送迎車の費用として同年度に5千万円を充当。「福祉対策措置」の名目だった。
こうした観光イベントや福祉サービス、地場産業振興など「ソフト」事業にも電源交付金が使えるようになったのは03年の法改正から。それまでは公共施設の整備費など「ハード」事業に限定されていた。立派な「ハコモノ」が建設されても維持管理費がかさむため立地自治体から使途の拡大を望む声があがっていた。
公共施設の維持・運営費としては、県立長岡屋内総合プールには18年度に光熱水費8450万円のほか、県立歴史博物館(長岡市)の光熱費など6110万円、県立図書館(新潟市)の設備更新費約8750万円が使われた。
原発誘致により立地自治体は、電源交付金のほかに固定資産税なども得られる。ただ、固定資産税による税収は年々減り「ハコモノ」の維持管理費が財政の重荷となる。維持補修に備える貯金として交付金を使うことも認められている。刈羽村は同年度に約3・5億円を積み立て、残高は約26億円にのぼっている。
電源交付金の主な使い道(2018年度)
・アンテナショップ「表参道・新潟館ネスパス」の建物賃貸料11カ月分
・県立歴史博物館の職員給与9カ月分(研究員14人、職員5人)
・柏崎市の消防職員の人件費126人分
・柏崎市内の保育園の118人分の人件費
・刈羽村の生涯学習センターや運動広場の管理運営費
〈電源立地地域対策交付金〉 原発立地地域に経済・財政的なメリットをもたらすため、田中角栄元首相が首相在任時の1974年に施行された「電源三法」にもとづく。交付額は発電実績などに応じて決まる。文化やスポーツ施設など公共施設の建設費のほかに、施設の維持管理費や将来の補修のための貯金にも充てられる。
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東洋大の井上武史教授(地方財政論)は「国策としての電力供給に交付金を支給する趣旨で、実質的に再稼働を促す財政的な誘導策だ」と指摘する。電源交付金は使い勝手がよく、減額となれば行政サービスの見直しにつながるおそれもあるという。「国とは違う視点で原発の安全性を検証する地方自治体もあり、大きな役割を果たしている。そうした取り組みを排除しないかたちに交付金制度のあり方を見直すことを検討すべきだ」と述べた。【朝日新聞】