関西学院大は27日、東京電力福島第1原子力発電所事故の避難者を対象に実施したアンケートの結果を公表した。将来的に「福島に戻るつもりはない」と答えた人が6割を超える一方、近所に「親しい人がいる」との回答は2割以下だった。新型コロナウイルス禍で失業した人もおり、研究グループは政府に生活支援策の充実を求める。
東日本大震災と原発事故は来年3月で発生から10年を迎える。調査は避難者の支援団体などを通じて実施。自主避難者を含む全国の4876人にアンケートを郵送し、694人(14%)が回答。震災時に福島県の在住者だった人が75%を占め、平均年齢は55.8歳。
福島県出身者(522人)のうち、将来的に「福島に戻るつもりはない」との回答は65%だった。事故前の居住地に戻らない理由(複数回答)では「空間線量は下がったが山林や草地の汚染が残っていると思えるから」が46.1%で最多。「廃炉作業中の原発で何が起きるかわからないから」も4割を超えるなど、住民の帰還になお壁があることが改めて浮き彫りになった。
一方、「福島に戻るつもりだ」との回答は26%だった。
現在の居住地の近所に「何か困ったときには助け合う親しい人がいる」は19.3%。半数以上が「震災前にはいた」と答えており、長年住み慣れた土地を離れ、人付き合いが希薄になった実態が浮かぶ。自由記述で「精神科に通院している。話し相手がいない」と記した避難者もいた。
アンケートでは、震災・事故前と2019年の年収も尋ねた。「300万円未満」との回答は、震災前は計22.7%だったが、昨年は計39.1%に上昇した。
このうち「100万円未満」は10.1%。10人に1人に相当し、震災前(4%)の2.5倍に膨らんだ。職業で「臨時雇用・パート・アルバイト」「無職」を選ぶ人が増えており、避難先で安定した職に就けず、収入が減ったケースが多い可能性がある。
新型コロナの感染拡大も影を落とす。回答した自主避難者320人のうち、6割が新型コロナで収入に影響があったと答え、このうち1割が失業、2割が休職に追い込まれていた。
研究グループを率いた関西学院大災害復興制度研究所の斉藤容子准教授は27日の記者会見で「高齢化と非正規化で低収入の人が増えている」と指摘。「発生から間もなく10年がたつが、福島の問題はまだ終わっていない」と語った。母子家庭へのベーシックインカム(最低所得保障制度)の創設などを盛り込んだ提言をまとめ、政府に提出する方針だ。
復興庁によると、10月時点の東日本大震災と原発事故の避難者数は約4万2千人で、このうち福島県から県外への避難者は約2万9千人。避難先を地域別にみると、関東が5割近くを占め、東北が34%、近畿が5%。【日本経済新聞】