関西電力は3日、大飯原子力発電所4号機(福井県おおい町)を定期検査のため停止する。福井県にある同社のすべての原発が3年半ぶりに稼働ゼロとなる。計画通りなら12月下旬に高浜原発3号機(高浜町)が再稼働するものの、運転40年超の原発3基の再稼働に向けた地元同意の見通しは立っていない。原発の現状と現地から見た課題をまとめた。
福井県内に関電の原発は11基あり、4基の廃炉が決まっている。残る7基のうち、高浜3号機は12月22日、高浜4号機は2021年1月の再稼働を見込む。9月下旬の再稼働を予定していた大飯3号機は、定期検査中に配管溶接部の亀裂が見つかり、停止期間が長引く見通しだ。
原発の発電コストは火力発電よりも低く、稼働すれば高浜原発は1基あたり月25億円程度、大飯原発は35億円程度の費用を圧縮できるとされる。原発は関電の経営の柱となっており、1970年代に運転を始めた美浜原発3号機(美浜町)と高浜1号機も再稼働を目指し、40年を超えて運転するために必要な安全対策工事を実施した。
関電は美浜3号機を21年1月、高浜1号機を21年3月に再稼働させる工程を示している。同じく40年を超えた高浜2号機も21年5月の再稼働を計画する。定期検査の4基と異なり、40年超運転には立地自治体の同意が欠かせない。ただ、クリアすべき課題は多い。
福井県は関電との信頼関係が毀損していると訴える。19年秋、関電役員らが高浜町元助役から金品を受領していたと発覚した。第三者委員会による調査のあとにも新たな受領が判明した。原発施設での労働災害も相次いでおり、3月には死亡者が出た。
使用済み燃料の中間貯蔵施設を巡る約束も果たされていないことが、福井県の態度を硬化させている。関電は当初、18年に県外の候補地を示すとしていた。しかし、間に合わず、岩根茂樹社長が西川一誠知事(いずれも当時)に謝罪して「20年内を念頭に示す」と改めて約束した。
期限まで2カ月を切るなか、森本孝社長は「覚悟を持って取り組む」と述べたものの、曖昧さの残る「20年内を念頭に」との言葉を繰り返し、具体的な表明時期や候補地について明言を避けた。杉本達治知事は10月22日の記者会見で「約束が果たされることが(再稼働の)議論の前提」と突き放した。
杉本知事は「電力需要地との連携」も関電に呼びかけている。10月14日の森本社長との面談では「恩恵を受けている皆さんと立地地域を結ぶ役割を果たしてほしい」と要望した。福井県の原発でつくられる電力の大半は関西圏で消費される。関電は福井県の負っているリスクを消費地に理解してもらう努力とともに、県南部の地域活性化を目指す「嶺南Eコースト計画」などへの支援を求めている。
■再稼働への期待も
関電は福井県だけでなく美浜、高浜両町からも同意を得る必要がある。両町はすでに手続きを始めており、10月下旬に相次いで住民との意見交換会や説明会を開いた。高浜町は6日、美浜町も近く町議会の特別委員会で再稼働を求める請願を審議する。本会議での議決を経て、両町長が同意するかどうか判断する。
さらに県議会の審議、知事の判断と続くが、杉本知事は「現時点で決まった日程はない」と、判断のスケジュールは示していない。両町には原発関連の仕事に従事する町民が多い。労働者が利用するタクシーや飲食店、宿泊施設など影響する業種も幅広い。収入増加につながる再稼働への期待は無視できない。
新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化している事業者は多い。関電への不信感は根強い半面、再稼働は地域経済にプラス効果をもたらす。中間貯蔵施設などの課題をにらみつつ、県民の感情をどう読み解くか。杉本知事は難しい判断を迫られる。
【日本経済新聞】