関西電力の役員らが福井県高浜町の元助役から多額の金品を受領していた問題は、発覚から1年が過ぎた。地元自治体からの信頼が揺らぎ、関電は新経営陣による立て直しの途中だが、運転期間40年を超えた原発の再稼働を目指している。使用済み核燃料の保管先確保という難題も抱え、原発に依存する経営のあり方が正念場を迎えている。
◆全容解明はできたのか?
関電は再稼働した原発について、事故対策工事の完了とともに地元の同意を得るプロセスに移行し、4カ月程度で知事の同意を取り付けてきた。美浜3号機と高浜1号機は9月に工事を終えたものの、関電は金品受領問題からの信頼回復など3つの「宿題」を抱えており、予定通りに再稼働できるかは見通せない。
一つ目は、金品受領問題の全容解明だ。昨年9月、八木誠前会長や岩根茂樹前社長らが高浜町の元助役から金品を受領した問題が発覚。3月に第三者委員会の調査報告書が公表されたが、7月に新たに子会社の元社長が元助役から多額の商品券を受け取ったことが判明し、再びグループ会社の調査をした。10月6日に公表された調査結果では、子会社2社の元社長や元幹部、本社の元社員ら少なくとも7人が、計303万円相当の商品券や物品を受け取っていたという。
9月18日に関電が福井県に工事完了を報告した際も、野路博之県安全環境部長が改めて調査結果の報告を要求した。調査が完了しない限りは、再稼働に向けた地元同意へのプロセスの進展はないとみられる。
二つ目は、企業風土の改革。関電は金品受領問題を受けて業務改善計画を進め、森本孝社長が6月に福井県に状況を説明したが、県側は「会社内部の見直しにとどまり、立地地域に届くものではない」と批判した。関電は改善をさらに示すことを求められている。
◆使用済み核燃料はどこに?
三つ目は、使用済み核燃料の中間貯蔵施設をどこに造るかという問題だ。関電は2017年に大飯原発3、4号機の再稼働について県に同意を求めた際、使用済み核燃料の搬出先となる中間貯蔵施設の県外候補地を示すと約束しており、20年中に示す必要がある。
こうした状況で、杉本達治知事は「関電はまず信頼を回復させる必要がある」とたびたび指摘。関電はこれらの対応を進めながら、地元同意の議論を求める時期を探ることになる。
知事が再稼働に同意するかを判断する際は、専門家でつくる県原子力安全専門委員会で、原発の安全性が検証される見通し。美浜3号機と高浜1号機は、運転期間が40年を超えた老朽原発であるため、慎重な検証が特に求められる。
◆福井県で初の取締役会 榊原会長「開かれた職場を」
9月28日、関電は福井県美浜町に置く原子力事業本部で取締役会を開いた。原発が立地する福井県での開催は初めて。この日は、6月に就任した榊原定征(さだゆき)会長(経団連前会長)ら社外取締役7人と社員8人の意見交換会も実施した。
福井県美浜町の関電原子力事業本部で9月28日に開かれた取締役会。左から2人目は榊原定征会長
福井県美浜町の関電原子力事業本部で9月28日に開かれた取締役会。左から2人目は榊原定征会長
榊原会長は意見交換会の冒頭、「おかしいと思ったことは率先して指摘をする。開かれた職場を作り上げてほしい」と述べ、金品受領問題の原因の一つとされた原子力事業本部の閉鎖的な体質の改善を訴えた。
◆「原発を動かすことが目的になっていた」社員から声
関電によると、社員からは「関電の使命は電気を届けることだったのに、いつの間にか原発を動かすことが目的になっていた」「原子力部門が世間一般の常識から少し懸け離れていると感じることもあった」などの声があったという。
榊原会長は終了後の取材で、今後も県内での取締役会開催に合わせて意見交換会を開く方針を説明。「不祥事が起きた場で取締役が実態を調査し、社員と交流して再発防止に取り組んでいることについて地元の理解を得たい」と話した。
原発と立地地域の経済に詳しい井上武史・東洋大教授は「原発は技術的な信頼と合わせて、企業としての信頼性も求められている。関電は今回のような取り組みを続けることが重要だ」と指摘した。
◆原発に大きく依存する経営
関電は東京電力福島第1原発事故後、原発の新規制基準をクリアした2原発4基を再稼働させた。運転期間が40年を超える美浜3号機と高浜1、2号機の運転延長も認められ、3原発7基態勢の実現が迫る。事故対策費に総額1兆円超の巨費を投じてでも原発再稼働にこだわるのは、火力より発電コストが安く、利益に直結するためだ。
大手電力の中でも、関電は原発への依存度が高い。3原発11基態勢だった福島事故前をみると、2003年度の総発電量に占める原発の割合は65%に上り、10年度は51%だった。
◆原発止まれば値上げ、動けば値下げ
しかし、福島事故後に原発の停止が相次ぐと、代わりとなる火力発電の燃料費がかさんで収益が悪化。11年度から4年連続で赤字となり、電気料金の値上げを2度実施した。
原発は1基の稼働で、1日1億円のコストが削減できるとされ、依存度が高いほど経営を左右する。関電は再稼働を進め、19年度の発電量の27%を原発にし、電気料金を値下げして消費者に恩恵を印象付けた。
◆久保利弁護士「再任の社外取締役は交代を」と提言
企業統治に詳しい久保利(くぼり)英明弁護士は共同通信のインタビューに応じ、6月の関電の株主総会で再任された社外取締役ら4人は交代すべきだと述べた。経営を外部から監督する立場にいながら問題を防げなかったとし、「独立性の高い人を改めて置き、体制を刷新する必要がある」と語った。
4人は、三菱UFJ銀行特別顧問で関電の社外取締役を2014年6月から務める沖原隆宗氏や、社外監査役から社外取締役に就いた佐々木茂夫元大阪高検検事長ら。久保利氏は、社外取締役の選任は筆頭株主の大阪市など株主の意見を聞き入れるべきだ、とも述べた。6月の総会では株主が提出した26議案は全て否決されている。
関電が旧経営陣に損害賠償を求めている訴訟については「同じ穴のむじなと思われてはいけない。前体制と決別するためにも徹底的にやるべきだ」と、なれ合いにならないよう求めた。
関西電力の金品受領問題 関電高浜原発がある福井県高浜町の建設会社が2018年に国税当局の税務調査を受けたのを機に、関電役員らが同町の元助役森山栄治氏(故人)から金品を受け取っていたことが発覚。関電の第三者委員会は森山氏から役員ら75人が総額3億6000万円相当の金品を受領したと認定。東日本大震災後の経営不振で削減された役員報酬の一部を、退任後もひそかに補てんしていたことも判明した。関電は6月、取締役としての注意義務に違反し会社に損害を与えたとして、旧経営陣5人に約19億円の損害賠償を求め提訴した。大阪地検特捜部は市民団体から提出された元役員らに対する告発状を受理し、捜査している。
【東京新聞】