関西電力の金品受領や役員報酬補填の問題で、大阪地検特捜部が会社法違反容疑などで市民団体から提出されていた告発状を受理したことが5日、分かった。市民団体側が明らかにした。特捜部は前代未聞の電力会社の不祥事を巡る捜査を進め、刑事責任の有無を慎重に判断するとみられる。
一連の問題は金沢国税局の税務調査をきっかけに2019年9月に発覚し、当時の経営トップが引責辞任する事態となった。市民団体の告発対象は八木誠前会長や岩根茂樹前社長ら9人。岩根氏は5日夜、告発状の受理について「一切取材は受けていない」と話した。
関電の第三者委員会の調査などによると、福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(死去)らから八木氏や岩根氏ら77人が総額3億6千万円相当の金品を受領していた。電気料金の値上げに伴って東日本大震災後に減額していた役員報酬の一部や、金品受領に関し追加で発生した元副社長の税負担分を退任後に補填していたことも判明した。
森山氏は1977~87年に高浜原発が立地する高浜町の助役を務めた。退任後、複数の原発関連企業の相談役などに就任。関電は関係企業に工事を発注し、森山氏は関電役員らに現金や小判、スーツの仕立券などを渡していた。第三者委は、金品提供が森山氏の関係する企業に関電側から工事を発注させ、本人も企業から経済的利益を得る目的だったと認定した。
市民団体は容疑について、金品受領は会社法違反(収賄)、役員報酬補填は同法違反(特別背任)、追加納税分の補填は業務上横領に当たると主張。森山氏の関係する企業への不適切な発注は背任などの疑いがあるとしている。
関電のコンプライアンス委員会が8月に公表した調査報告書によると、役員報酬の補填問題は当時の森詳介会長が15年10月ごろに提案して方針が決まった。補填は業績回復後の16年7月~19年10月、森氏を含む常務執行役員以上の退任者18人を対象に総額は約2億6千万円に上った。
震災後は社員の賃金が約5%減額され、賞与も16年夏分まで7回見送られていた。役員報酬の補填は公表されなかった。
金品受領問題はキーマンの森山氏が亡くなっており、刑事責任を追及するハードルは高い。役員報酬の補填問題は電気利用者を裏切る行為で悪質との見方が出ている。特捜部は今後、関電側に資料提供を求め、元役員ら関係者から事情を聞くなど捜査を進めるとみられる。関電の森本孝社長は5日夜、「協力要請があれば適切に対応していきたい」と話した。
関電は6月、一連の問題で取締役としての善管注意義務違反があったなどとして、八木氏ら旧経営陣5人に計約19億円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴。関電の個人株主も現旧経営陣ら22人に総額92億円の損害賠償を求める株主代表訴訟を同地裁に起こしている。
関西電力の話 告発の対象者は当社の元社員であるため、お答えする立場にない。さらなる経営の改革、刷新に取り組みながら、信頼回復に全社一丸となって全力を尽くして参りたい。
【日本経済新聞】