関西電力の金品受領問題の発覚から26日で1年がたつ。この間に会長と社長が交代し、28日には原子力発電所がある福井県美浜町で取締役会を初めて開く。組織の立て直しを急ぐが信頼回復は途上で、原発の再稼働は見通せない。新型コロナウイルス禍で電力需要が減少。統治改革と成長戦略を同時に進める難しいかじ取りを迫られている。
「業務執行を様々な角度から監督し、新生・関電に生まれ変われるよう、丁寧にやっていきたい」。株主総会のあった6月下旬、前経団連会長の榊原定征氏は会長に就くと取締役会でまず呼びかけた。居並ぶ新経営陣は半数超が社外取締役に変わった。重視するのは社員の意識改革や風通しの良い組織づくり。取締役会を福井県で開くのは、原発部門の閉鎖性を変える狙いもある。
原発のある福井県高浜町の元助役(死去)などから現金やスーツ仕立券を受け取っていた問題が発覚したのは2019年9月。第三者委員会の調べで、対象は70人超、総額3億6千万円相当に広がった。調査報告書は「内向きの企業体質の下で経営陣が問題を先送りし、基本的なガバナンス(企業統治)が機能しなかった」と結論づけた。
関電は体質変化を急ぎ、組織の形を次々と変える。指名委員会等設置会社への移行、コンプライアンス委員会の新設、経営層と従業員の意見交換会……。「外部の客観的な視点を重視する仕組みを整え、一人ひとりの意識と行動を変える」と森本孝社長は語る。
だが、周囲はまだ冷ややかだ。福井県の杉本達治知事は9月上旬の記者会見で「(関電と)信頼が高まっている状況にはない」と説明。運転開始から40年を超える高浜原発1号機や美浜原発3号機の再稼働についても、「日程は白紙だ。地元同意に向けて動いていない」と述べた。両原発は1基が動くと月25億円ほどの採算改善を期待できるが、めどは立たない。
過去との決別では、旧経営陣との裁判も関心を集める。関電は八木誠前会長や岩根茂樹前社長ら旧経営陣5人に善管注意義務違反があったとして、計約19億円の損害賠償を求める訴訟を起こした。5人は争う姿勢を示している。一方で株主からは現旧の経営陣を含む計22人に対し、約92億円の損害賠償を関電に支払うよう求める訴訟も起きた。
こうした混乱でも電気の契約件数の減少ペースは加速していない。ただ業績面ではコロナ禍が響き、2021年3月期は連結売上高が前期比6%減の2兆9800億円、純利益は31%減の900億円になる見通しと23日発表した。改革で信頼を取り戻しつつ新たな成長の方向を探る。2つの重い課題に追われている。【日本経済新聞】