関電の大飯原発(福井県おおい町)。3号機(左から2番目)は定期検査中に配管溶接部に亀裂が見つかり、9月下旬を予定していた再稼働が遅れる見通し
関西電力が原子力発電所を巡って試練の秋を迎えている。定期検査で相次いで原発が止まり、約3年半ぶりに稼働がゼロになる可能性が出てきたためだ。電力需要が旺盛な夏場を避けられることもあり安定供給に支障は出ない見通しだが、発電コストが割安な原発の稼働が減ると業績の重荷になる。再稼働を目指す3基についても金品受領問題の余波が広がる。
関電は東日本大震災後に順次、高浜原発(福井県高浜町)3.4号機と大飯原発(同県おおい町)3.4号機の計4基を再稼働してきた。足元では高浜3号機と大飯3号機は定期検査で運転を止めている。
稼働している高浜4号機は10月上旬、大飯4号機は10月下旬に定期検査に入る。高浜3号機の検査も続くため、10月下旬~12月下旬の約2カ月間は3基が停止する。
一方、検査中の大飯3号機は9月下旬に稼働する予定だったが、一部設備に亀裂が見つかり時期が未定となった。稼働再開が10月下旬以降に遅れれば、動いている原発がゼロになる時期が生じる。2017年5月以降は少なくとも1基が稼働しており、稼働原発がゼロとなれば約3年半ぶりの事態だ。
原発は火力発電よりも発電コストが低く、高浜原発が稼働すれば1基あたり月40億円程度、大飯原発は55億円程度の費用を圧縮できる。原発が止まると割高な発電が必要となる。新型コロナウイルス禍で電力需要自体が落ち込んでおり、追い打ちをかけられる形だ。
震災後に全国で再稼働した原発は関電と九州電力、四国電力の3社の計9基で、関電が4基を占める。関電は原発の再稼働で業績が持ち直してきただけに、反動が出そうだ。
さらに、震災後に止まったままの美浜原発(同県美浜町)3号機や高浜1号機で目指す再稼働は21年以降にずれ込むことになった。11年から9年以上にわたって停止しているため、使用前検査に想定より時間をかける必要があると判断した。
再稼働までに福井県などの同意も得る方針だが、金品受領問題が影を落としている。福井県側は「信頼回復がなければ原発について前に進むことはない」(杉本達治知事)と強調、関電側も「地元の理解を得られるよう、まずは信頼回復に努める」(片岡秀哉・原子燃料サイクル部長)との考えだ。議論にどれくらい時間がかかるのか、先行きは見通せない。
杉本知事は使用済み核燃料の中間貯蔵施設についても、県外の立地候補地を年内に明示するよう要望している。関電の森本孝社長は「最優先すべき課題として全社を挙げて取り組む」とするが、エネルギー業界では「ハードルは高い」との指摘もある。
電力大手の中でも電源に占める原発比率が高い関電。試練の秋に続く道のりも決して平たんではなさそうだ。【日本経済新聞】