関西電力が電気料金の値上げ時にカットした役員報酬を後で補塡(ほてん)していた問題について、関電コンプライアンス委員会は、当時会長の森詳介氏が独断で決めたと認定した。委員長の中村直人弁護士は「世の中を裏切ることを平気でしてしまう」と森氏らを厳しく非難した。
関電は2013年と15年の2度、電気料金を値上げ。経営責任を踏まえ、役員報酬を一部減額した際に「身を切る覚悟である」と表明していた。しかし、その裏側で補塡を決めていた。委員会の調査報告書では、森氏は15年10月ごろ、50%を超える報酬減額分について「(役員が)退任後カバーできないか」と指示。当時の秘書室が40%を上回る減額分を退任役員に支払う案を示したという。
社内に残された原稿には、森氏らが退任役員に嘱託を委嘱する際、口外しないよう伝えた形跡も確認された。「在任中に役員報酬を返上した額を補塡するものではないが、世間的には誤解を生むおそれもある」とし、「(委嘱について)ご本人限りでお願いする」との文言が記されていたという。
これについて、同委員会は「(森氏らが)嘱託の事実が明らかになった場合に補塡と非難されることを強く意識していた」と指摘。中村委員長は17日の会見で「報酬の後払いにあたる可能性が高い」とし、退任役員らに「口止めしたもの」との見解を示した。
また中村委員長は、減額された役員の一部は「非常に不満に思っていた」とし、秘書室の資料からも「他の電力会社との比較でおかしいという声も上がっていた」と明らかにした。
関電によると、現役役員の報酬は株主総会で総額を承認した後、取締役会が会長に一任すると決定。退任役員の委嘱先や報酬も含めて会長自身が決めるのが慣例だったという。こうした会長への権限集中について、中村委員長は他の企業と比べても「少数派」だとし、企業統治の観点で問題があるとした。
関電の弥園豊一副社長はこの日の会見で、報酬補塡問題での刑事告訴について、「コメントする立場にない」と明言を避けた。役員報酬の補塡をめぐっては株主らが大阪地検にすでに刑事告発している。
関西電力の役員報酬補てんをめぐる動き
2011年3月 東日本大震災。翌年春までにすべての原発が停止
12年3月 3月期決算が赤字転落の見通しとなり、役員報酬カットを開始。19年6月まで最大7割を削減
13年5月 電気料金を値上げ
15年6月 電気料金をさらに値上げ
秋 森会長(当時)が役員報酬補塡を指示
16年7月 補塡開始。19年10月まで計18人に約2億6千万円
20年3月 金品受領問題をめぐる第三者委員会の調査報告書の公表をきっかけに、役員報酬補塡が発覚
6月 金品受領や役員報酬補塡をめぐり、関電が元取締役5人に計約19億円の損害賠償を求めて提訴
8月 関電のコンプライアンス委員会が、役員報酬補塡に関する調査報告書を公表。森氏による主導などを認定
【朝日新聞】