景気に左右されず業績が安定している「ディフェンシブ」と呼ばれる業種に、新型コロナウイルスの感染拡大が明暗をもたらしている。ホテルや商業施設の利用が減り、関西での送電量は4月に前年同月より5%減った。鉄道では新幹線の乗客は前年の1割を切る。一方で家にこもる人が増え、食品メーカーや通信は追い風を受けている。在宅勤務など生活スタイルの変化が広がれば、「安定」の水準も変わりそうだ。
全国の電気の需給を管理する電力広域的運営推進機関によると、関西の電気の送電量は3月に4%、4月に5%前年を下回った。5月は10日までを比べると11%減っている。気温や降水量の影響もあるが、百貨店やショッピングセンター、ホテルや工場が閉まっていたり稼働を落としている影響が大きいようだ。
関西電力は12日、金品受領問題が発覚して初となる通期決算を発表した。2020年3月期の連結売上高は3兆1842億円と前の期より4%減った。原油価格の下落が電気料金に反映するまでのずれもあり、営業利益は2069億円と1%増を確保した。同じく減収増益となった大阪ガスと同じ構造で、時間差の利益はいずれ解消するものだ。
20年1~3月期は営業利益が381億円と50%減った。森本孝社長は記者会見で「商業施設や娯楽施設などが営業自粛、休業している影響は確実に出ている」と話し、21年3月期の業績予想は未定とした。
社会インフラは景気が低迷しても利用はあまり減られないとされてきた。だが新型コロナは人の移動を止めた。JR西日本では大型連休中に新幹線や在来線特急の利用者が95%減った。列車を運休し、16日には1日1400人の一時帰休にも踏み切る。2020年1~3月期には305億円の連結営業赤字に陥った。
鉄道各社は運営するホテルや商業施設でも打撃を受ける。20年3月期は新型コロナにより京阪ホールディングス(HD)は49億円、南海電気鉄道は33億円の営業利益が消え去った。
一方で販売を伸ばすのが食品メーカーだ。日経POS情報で4月の各企業の全製品の平均販売額(千人当たり)を調べると、レトルト商品が売れたハウス食品は1年前と比べ43%増。保存期間の長いソーセージやハムの需要が旺盛で、日本ハム(22%増)と丸大食品(27%増)も伸び率が高い。「プッチンプリン」など菓子類も伸び、江崎グリコは14%増だった。
もちろん業務用は落ち込む。ハウス食品グループ本社はカレーの壱番屋を傘下とし、日本ハムはプロ野球球団も抱えており、21年3月期はいずれも減収を見込む。
在宅勤務の広がりを受け、通信企業も堅調だ。NTT西日本では家庭向けインターネットの通信量が増えている。4月27日の週の平日昼の通信量は2月25日週と比べて61%増加。土日昼でも12%増えた。同業のオプテージ(大阪市)でも足元の昼の通信量が前年比で最大2倍になっている。
家庭向けは定額契約がほとんどのため通信料収入は増えないが「通信能力には余裕があり、追加投資は基本的に必要ない」(NTT西)。NTT西では3月中旬、テレワーク導入を相談できる法人向け電話窓口を設置した。在宅勤務の拡大で、足元の問い合わせ件数は当初の2倍以上になっており、新たなビジネスチャンスが生まれている。
製薬はワクチン開発など話題は多い。小野薬品工業が12日に発表した20年3月期の連結純利益は16%増の597億円だった。新型コロナの感染拡大で営業活動を控えコストが減った。相良暁社長は「新型コロナにより臨床試験などで患者の募集が止まっているものもある。このままの状況が続けば中長期的に影響が出てくる」と話した。
■ディフェンシブ銘柄 株式市場で使われる言葉で、内需主体のため景気が変動しても業績がぶれにくい業種を指す。社会インフラである電力・ガスや鉄道、通信、生活必需品である食品や医薬品などが該当する。
■外出自粛ニュース、AIが企業への影響を分析すると
外出自粛を巡るニュースから大きな影響を受ける関西企業はどこか。日本経済新聞社がデータ解析のゼノデータ・ラボ(東京・渋谷)の協力を得て分析したところ、マイナスの影響が大きい企業には鉄道や建設が目立った。小売業には濃淡も表れている。
ゼノデータは新聞やインターネットで配信される膨大なニュースが将来の企業業績に与える影響を人工知能(AI)でスコアにする。企業の財務情報などをもとに、ニュースによって売上高や利益がどう変化するかを解析する。
売上高1000億円以上の関西企業でマイナス値が最も高かったのがJR西日本だ。鉄道需要が縮小し、グループのホテルや商業施設も厳しい。消費関連では近鉄百貨店に加え、在宅ワークの影響を受けるとみられるオフィス家具のコクヨも上位に入った。
浅沼組や奥村組、建機レンタルの西尾レントオールなど建設・土木関連は工事の延期や見送りが広がれば、業績の下振れリスクが高まる。
プラスの影響がありそうなのは巣ごもり消費の恩恵を受ける企業だ。ハウス食品グループ本社などの食品メーカー、業務スーパーの神戸物産などの事業は日々の生活に欠かせない。島津製作所や日東電工など部品メーカーはパソコンや医療機器の需要増が追い風となりそうだ。
【日本経済新聞】