東日本大震災の発生から11日で9年となった。滋賀県内でも犠牲者を悼む法要が営まれ、大規模災害に備えた訓練があった。県によると2月25日現在、福島、宮城両県などから60世帯156人(昨年と比べて世帯数は同じだが5人減)の避難が続いている。(新谷千布美)
原発事故が発生した場合、被曝(ひばく)する前か直後に飲むと甲状腺がんを防ぐ効果がある「安定ヨウ素剤」。県内全域で事前配布を望む声が強まり、昨年10月には約20の市民団体が連絡会を結成した。
「何もしないままでいいのか」。連絡会メンバーの一人で大津市の開業医、福田章典さん(59)は東日本大震災発生時、福島第一原発事故のニュースを見ながら自問した。
他県で安定ヨウ素剤の知識を広めている医師がいることを知り、自らも呼びかけるようになった。今年5月には、自らの診療所で市民向けの勉強会も開く予定だ。
国は事故後、原発から半径5キロ圏内の住民には安定ヨウ素剤を配布するよう指針で定めた。30キロ圏内では自治体で備蓄することとし、2月には小泉進次郎・原子力防災担当相が配布を各都道府県に指示した。
安定ヨウ素剤は、被曝24時間前~2時間後に飲まないと十分な効果が得られない。
福島第一原発事故では、40~50キロ離れた福島県飯舘村も放射能に汚染され、全村避難を強いられた。
連絡会は福井県内の原発から50キロ圏内に滋賀県の北西部が入ることを指摘。風の強さで、さらに遠くまで放射性物質が広まるおそれがあるとして、県と全19市町に対し県民が効果が高いタイミングで飲めるよう事前配布を求めている。
県は30キロ圏内の高島、長浜両市の学校や集会所など一時避難所134カ所に58万9千錠、ゼリー剤4660個を備えている。
県原子力防災室の担当者は「住民の自宅では紛失や誤飲のおそれがある」として、県は事前配布はしない方針。連絡会の調べでは、県内で事前配布をする市町はないという。
元高校教諭で連絡会事務局長の杉原秀典さん(70)は「災害時に行政がきちんと機能するかわからない。備えられることは備えるべきだ」と話す。今後は市民向けの勉強会を重ね、自治体に配布を求めていくという。
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〈安定ヨウ素剤〉 原発事故が起きた際に飲むことで、放射性ヨウ素による内部被曝を抑え、甲状腺がん発症の危険性を下げる効果がある。被曝24時間前~2時間後だと9割以上の放射性ヨウ素を阻むが、被曝後8時間以内だと効果は約4割に落ちる。3歳以上13歳未満は1錠、13歳以上は2錠。がんの危険性が高い乳幼児向けにはゼリー状もある。【朝日新聞】