福島第一原発の事故で避難した住民への慰謝料が妥当かどうかが争われた裁判で、2審の仙台高等裁判所は「東京電力は平成20年の時点で事故の可能性を認識していた」と指摘したうえで、東京電力に1審より1億円余り多いおよそ7億3000万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。原発事故の被害をめぐる集団訴訟の2審判決は初めてです。
この裁判は、福島県の双葉郡や南相馬市の住民など200人余りが原発事故でふるさとでの生活を奪われ、避難生活を強いられた慰謝料などとして東京電力に18億8000万円余りの支払いを求めたものです。
裁判では東京電力が国の指針をもとに示した慰謝料が妥当かどうかが争われ、1審の福島地方裁判所いわき支部は指針を上回る6億1000万円余りの支払いを命じ、原告と被告の双方が控訴していました。
12日の2審の判決で仙台高等裁判所の小林久起裁判長は「東京電力は平成20年に出た試算で大津波で事故が起きる可能性を認識していたにもかかわらず、津波対策工事を先送りしてきた中で事故が発生した。対応の不十分さは痛恨の極みと言わざるをえない」と指摘しました。
そのうえで「住民は地域の人間関係を断たれるなど極めて大きな精神的苦痛を受けた」として、原告のうち146人への賠償額を増やし、1審よりもおよそ1億2000万円多い、合わせておよそ7億3000万円の賠償を命じました。
原告団などによりますと、原発事故の被害をめぐる集団訴訟で2審の高等裁判所の判決が出たのは初めてです。
全国では東電に加えて国も相手取って原発事故の責任を問う集団訴訟が起こされ、責任の有無について地裁の判断が分かれていて、今後言い渡される高裁の判決が注目されています。
原告団から歓声と拍手
判決が出ると、原告の代理人の弁護士らが裁判所の前で「勝訴・原判決を克服」などと書かれた紙を掲げ、集まった原告や支援者たちから歓声と拍手がわき起こりました。
原告団の早川篤雄団長は「裁判官の良識を信じて訴えてきたことが認められ、想像以上の良心的な判決をいただいた」と涙ながらに話していました。
弁護団の共同代表を務める小野寺利孝弁護士は「東京電力の悪質性を正面から認め、ふるさとを失うという被害者の苦しみに応える極めて画期的な判決だ。東京電力にはこの判決を真摯(しんし)に受け止め、上告せずに早期に解決することを求めたい」と話していました。
別の集団訴訟の住民代理人「画期的な判決」
原発事故をめぐる民事裁判に詳しく、別の集団訴訟で住民の代理人を務めている馬奈木厳太郎弁護士は、12日の判決について「東京電力が津波を事前に予測できたことや、事故対策をとらなかったことにも踏み込んで認定し、賠償額を増やした。原告の思いを踏まえた貴重で画期的な判決で、仙台高裁の見識が示された」と評価しました。
そのうえで「今月中には東京高裁でも同様の訴訟の判決が出されるので、その判決次第では、この地域に住んでいた住民への賠償の水準が形成される可能性がある」と指摘しました。
東京電力「判決内容を精査し対応」
東京電力は「今後判決内容を精査し、対応を検討してまります」とコメントしています。【NHK】