関西電力の原子力発電所の再稼働計画に暗雲が漂っている。5月に安全対策工事が完了する高浜原発(福井県高浜町)1号機は、早ければ6月とみられていた稼働時期が遅れる公算が大きい。再稼働には地元の同意が必要だが、昨年に発覚した役員らの金品受領問題で地元が慎重姿勢になっている。3、4号機もテロ対策施設の建設が間に合わず、8月以降に順次、稼働できなくなる。原発依存度が高いだけに業績にも影響しそうだ。
高浜原発1号機(右)と2号機は安全対策工事を進めている
高浜原発1号機(右)と2号機は安全対策工事を進めている
関電は2011年の東京電力福島第1原発の事故を受けて原発の安全基準が厳しくなったあとも、大手電力の中で再稼働を先行させてきた。これまでに原発4基を再稼働させ、発電コストを抑えることで家庭や法人向けの電気料金を下げるなど、電力自由化が進む中で攻勢をかけてきた。
ただ、ここにきて計画に狂いが生じている。原発の稼働期間は運転開始から原則40年と決められているが、最長20年の運転延長が認められる。関電は16年に高浜原発1、2号機と美浜原発(福井県美浜町)3号機で原子力規制委員会の運転延長の審査に合格。20年以降の再稼働を目指し、安全対策工事を進めてきた。
その第1弾となる高浜原発1号機の工事は5月に終わる予定で、地元同意をスムーズに得られれば最短で6月にも再稼働できるとの見方があった。ただ、19年9月に関電の役員らが高浜町元助役(故人)から金品を受領していた問題が表面化し、状況は一変した。
同社は実態解明のために外部の弁護士でつくる第三者委員会を発足させたが、調査は長引いている。関電の岩根茂樹社長はこの問題を受け、引責辞任する意向を表明しており、調査報告を受けて次期社長ら新しい経営体制を決める予定だ。
ある福井県幹部は「調査報告書が出てトップが代わっても、それだけですんなり同意できるという話ではない」と話す。具体的にどの程度の期間が必要なのかには言及しなかったが、再稼働に必要な、地元自治体からの同意の取り付けは難しい状況となっている。
31日の19年4~12月期の決算発表で森本孝副社長は「まず地元の信頼回復に向けて説明を重ねていく」と言及。新体制が発足しても信頼回復には時間がかかる見通しで、同じく7月に工事が終わる美浜原発3号機の再稼働も当初見込みより稼働時期がずれ込みそうだ。
高浜原発1、2号機、美浜原発3号機が再稼働すれば、燃料コストの高い火力発電所の稼働を減らせるため、1基につき月40億円程度の収益改善効果がある。稼働の先送りは関電の収益回復を遅らせる。
関電は29日には、高浜原発3、4号機についても8月以降にいったん停止させ、それぞれ約5カ月、約4カ月後に再稼働する計画を発表。テロ対策施設の工事が設置期限までに間に合わないためだ。
東京電力ホールディングスなどが稼働する原発が1基もない中、関電は原発の再稼働で先行できたことを強みにしている。金品受領問題を背景に地元の同意取り付けが進まないような事態になれば、競争力となっている低価格の電力供給も難しくなり、契約を他社に奪われるような展開になりかねない。【日本経済新聞】