福島県の県民健康調査の甲状腺検査を担当している福島県立医大は、検査2巡目(2014~15年度)の結果の解析を初めて発表した。2巡目では71人が「がん、またはがんの疑い」とされたが、その罹患(りかん)率について検討した結果、事故当時の年齢が低い人ほど罹患率が高くなったチェルノブイリ原発事故のような状況は見られなかった、とした。
解析結果は昨年11月、専門誌に研究論文として掲載された。
検査は、事故当時おおむね18歳以下だった県民を対象に、甲状腺の状態を長期的に見守るとして、1巡目(11~13年度)から繰り返し行われている。2巡目は約27万人が受け、71人が「がん、またはがんの疑い」とされた。
研究チームは、1巡目と2巡目両方を受診し2巡目に「がん、またはがんの疑い」とされた患者70人を、3歳ごとに受診時の年齢別に分け、各年齢層ごとに年10万人あたりの罹患率を検討。その結果、2歳以下は0人、3~5歳は0人、6~8歳で3人、9~11歳で10人、12~14歳で22人、15~17歳で29人、18~20歳で48人、21~22歳で64人と、年齢とともに罹患率が増えていた。
一般的な甲状腺がんは年齢とともに増加する一方、被曝(ひばく)によるものは若い人ほど発症の危険性が高いことが知られ、チェルノブイリ原発事故では事故当時の年齢が低い人ほど罹患率が高くなった。
研究チームは今回の解析の結果、2巡目検査がなされた5年後までで、福島では「(がんが増えた)チェルノブイリのような状況は見られなかった」と結論づけた。研究チームの大津留晶・県立医大教授は、対象データが事故5年目までのため、放射線の影響を十分検討できる時期ではないなどとして「この研究だけで、事故の被曝影響について結論づけられない」としている。
また、研究チームはこの結果について、甲状腺検査で行っている超音波スクリーニングは、将来的に治療が必要にならないがんを診断する可能性があると指摘。この過剰診断の弊害を防ぐため、「早急な検査の改善が望まれる」とした。【朝日新聞】