日本で原子力発電が始まって60年近くが過ぎ、運転を終えた原発を解体する本格的な廃炉時代を迎えた。一般の商用原発では18基の廃炉が決まり、今後も増える見通しだ。東京電力福島第1原発事故の影響で安全規制が厳しくなり、研究用の原子力施設も廃止が続く。後始末の作業は数十年かかるうえ、廃棄物の行き先が決まっておらず、出口は遠い。
9日、静岡県御前崎市にある中部電力の浜岡原発1、2号機に入った。2009年に稼働をやめ、全国でも作業が先行する原発だ。2号機の原子炉建屋内では原子炉の解体に備え、炉内の放射性物質の汚染を減らす作業の準備をしていた。圧力容器や配管の内側表面にできた放射性物質を含む膜を薬品で溶かして除去する。
隣接するタービン建屋では原子炉で発生した熱エネルギーを電気に変える巨大なタービンと発電機を撤去、解体が進む。タービンなどの部品をノコギリ状の刃で切断する。研磨剤を吹き付けて表面の放射性物質を削り取って除染する。中部電浜岡原発の山元章生廃止措置部長は「安全の確保を最優先に計画的に進めている」と話す。
廃炉の第1段階は核燃料搬出などの準備期間、第2段階でタービンなど原子炉以外の設備撤去、第3段階が原子炉解体、第4段階で建物を解体する。浜岡1、2号機は第2段階の後半で、23年度に第3段階に入り、36年度までに建物の解体を終える予定だ。
解体技術は確立しているが、問題は放射性廃棄物の量をどう減らすかだ。日本全体では一般の原発で18基の廃炉が決まった。11年に炉心溶融事故を起こした福島第1原発の6基を含めると24基。日本で稼働した57基の約4割を占める。40基近くの原子炉の廃止が決まっている米国などに次ぐ規模だ。
低レベル放射性廃棄物は浜岡1、2号機では約2万トンに達する。全国18基で16万トン超にのぼる。第3段階での発生が多く、遠からぬ将来に廃棄物の行き先が問題になる。
廃棄物は汚染レベルの高い順に「L1」「L2」「L3」の3段階に分かれ、電力会社が処分する責任を負う。受け入れ自治体を探すのは容易ではなく、処分場のメドはほとんどたたない。
地下70メートルより深くに約10万年埋めておく必要があるL1は規制基準も整備されていない。1998年に運転を止めて最初に廃炉作業を始めた日本原子力発電の東海原発(茨城県)は真っ先に影響が出そうだ。「廃棄物を入れる容器の基準ができないと、原子炉の解体を始められない」(日本原電)。当初は17年度に廃炉完了の予定だったが、廃棄物問題もあって30年度に変更している。
福島第1事故の11年以前に廃炉が決まっていたのは、日本初の商用炉である東海原発、浜岡1、2号機の3基のみだ。
同事故後、津波対策などを強化した新規制基準が施行された。原発の運転を原則40年に限定した。1度に限り20年の延長が可能だが、老朽化の影響を原子力規制委員会が厳しく審査する。
電力各社は安全対策費と原発の再稼働で得られる利益をてんびんにかけて、経済性に見合わない原発の廃炉を決める。廃炉の数が増えるうえに処分場の整備も滞れば、全国の原発で放射性廃棄物が敷地内に残り続ける。廃炉作業が遅れる恐れもある。廃炉時代にやるべきことが問われている。【日本経済新聞】