関西電力幹部が福井県高浜町の元助役から多額の金品を受け取っていた問題が発覚し、原子力発電への逆風が強まっている。一方、原発を抱える自治体からは、再稼働を強く求める声が出ている状況だ。
福島第一原発においてあれだけの事故が起こったにもかかわらず、自治体が強く再稼働を求めるのは、原発が極めて大きな経済圏を形成しており、地域経済がその枠組みに完全に組み込まれているからである。関電問題を逆から見れば、自治体側が手段を選ばず原発マネーをつなぎ留めている図式と映る。
原発の建設には1基当たり約4000億円(110万キロワット級)の資金が必要とされ、多くの建設工事が伴う。だが原発経済は建設資金だけにとどまらない。
多くの人は気付いていないが、私たちが支払う電気料金の中には、電源開発促進税という税金が含まれている。家庭が消費した電力1キロワット時当たり0.375円を電気料金に含めて徴収するというもので、税収の総額は3000億円以上にもなる。家族のいる世帯では月当たり500キロワット時程度の消費電力があるので、毎月の税額は200円近くになっているはずだ。
これは電力会社から送られてくる明細にも金額が記載されない「見えない税金」なので、今まで社会問題になったことはほとんどない。消費増税への反発などとは大きな違いがある。
しかもこの税収は、以前は一般会計ではなく特別会計という外部のチェックが入りにくい政府会計で処理されており、金額の大半が原発のある自治体への交付金や原発推進事業などに充てられてきた(現在は一旦は一般会計を通ることになっているが、査定されにくい予算であることに変わりはない)。
同じ場所で増設が続く訳
原発が建設される自治体には、新規の原発1基当たり1300億円以上の交付金が付与されるほか(周辺自治体含む)、固定資産税も総額で400億円に達する(稼働40年と仮定した場合の推定値)。だが、これらの交付金や固定資産税は、原発建設直前や稼働直後に大半が支払われ、その後は急激に金額が減少する。
多額の資金を得た自治体は、一気に予算を拡大させてしまうので、原発の新規建設が続かないと予算を維持できない。ある自治体に原発ができると2号機、3号機と次々に増設が行われることにはこうした背景があり、一種の麻薬のような効果をもたらしている。
日本は全国に40基近くの原発を抱えているが、一連の金額を単純に足し合わせると総額で約7兆円が自治体に落ちる計算であり、この巨額マネーをめぐってすさまじい争奪戦が行われてきた。
先日、原子力関連施設を多数抱える茨城県東海村の山田修村長が「原発不要論者は自宅から出るな」と過激な発言を行ったことが問題視されたが、これだけの原発マネーが自治体に落ちているという現実を考えると、(原発マネーの持続を求めたと受け取られかねない)同氏の発言は、やはり不適切だったと言わざるを得ない。
政府は第5次エネルギー基本計画で原発新設を明記せず、このままでは日本の原発はあと30年で自然消滅する。再稼働するにせよ原発をなくすにせよ、エネルギー開発に伴うマネーの動きを透明化できなければ、再び同じ問題を起こしかねない。関電スキャンダルは原発マネーを透明化するきっかけとすべきだろう。【NEWSWEEK】