電力会社、地元有力者に業者、そして政治家──。原発マネーをめぐる汚れた関係が徐々に明らかになってきた。関西電力の役員ら20人が、「原発のドン」とされる人物から3億2千万円にのぼる金品を受け取っていた。その人物の影響力は、少なくとも10年以上前から続いていた。
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「なぜ受け取れないのか、というのが非常に厳しい言葉で、本当に激高されました。非常に厳しいお声で、にらまれるといいますかね。そういう感じでした」
10月2日の記者会見。福井県高浜町の元助役の森山栄治氏(故人)から直接、金品859万円相当を受け取った関西電力の八木誠会長は、森山氏に返却を申し出た際の様子をそう説明した。
八木会長は4年間にわたり、金貨、金杯、商品券、スーツ仕立券と数々の金品を受け取っている。
一方、岩根茂樹社長は、
「就任祝いのお菓子だと言われてもらった。会社で秘書に確認させると金貨(10枚)があった。会社の金庫で保管していた。森山氏は意に沿わないことがあると激高するということで、タイミングをみて返そうと思っていた」
と釈明した。
報告書では、森山氏に関電が「配慮」した理由の一つをこうあげている。
<森山氏は高浜町、福井県庁、福井県議会及び国会議員に広い人脈を有する>
森山氏と30年以上の付き合いがあった、地元の原発関連業者はこう明かす。
「高浜町では選挙に出るにはまず森山氏へのあいさつからはじまる。行かなきゃ、当選できないほど票とカネに影響力がある。それは国会議員も同じ。あいさつまではいかないが、地元の国会議員はみんなどっかで世話になっている。自身が株主で取締役だったオーイング(警備会社)と、アイビックス(同)など複数の関連会社を介して献金し、影響力を誇示していた」
オーイングは森山氏が筆頭株主とされ、昨年5月、金沢国税局の税務調査があったころまで森山氏は役員だった。アイビックスの吉田敏貢会長はオーイングの役員にも名を連ねている。
そこで、明らかになったのが、森山氏と、自民党の稲田朋美元防衛相(福井1区)、高木毅元復興相(福井2区)との関係だ。
稲田氏が代表を務める「自民党福井県第一選挙区支部」の政治資金収支報告書によると、オーイングは2011~13年にそれぞれ12万円を献金。アイビックスは、11~13年は毎年36万円、14~16年は毎年12万円、17年は42万円を献金。11年には、稲田氏の後援会長を務めていた、アイビックスの吉田会長個人が50万円を献金している。
アイビックスの関連会社の北興産業、伸海エンジニアリング、エイワイ興産からも献金がある。
稲田氏の事務所にこの件について問い合わせると、「事実関係を確認のうえ、対応を考えているところです。ただ、アイビックスに関しては問題はないと考えている。これについては返還は今のところ検討していない」
との回答だった。
また、高木氏が代表を務める「自民党福井県第二選挙区支部」は、16年にオーイングに警備費用として約19万4千円を支払っていた。高木氏の事務所は、
「国政報告会の駐車場警備を地元警備会社に発注したところ、その会社が業務を外注し、収支報告書記載の支払いになった」
と回答。
地元政治家らへの取材から、敦賀市長などを務めた高木氏の父孝一氏と森山氏が親しい付き合いをしていた、との証言があり、その点についても尋ねたところ、事務所は、
「(高木氏は)父親からはそのような話を聞いたことはありません」
と回答した。
「工事金額が話に出ることはある」
本誌が12年に森山氏を直撃取材していたことはすでに報じた。その際、関電や政治とのかかわりについても、質問をしていた。
国会議員や町長、地元の町議との関係について森山氏は、
「国会議員の先生は地元だから、当然、知っている。それだけで、特別な関係だとかはない」
「私にあいさつがないと町議になれない? 当選しないって? そんなことないよ。誰が言っているのか。あいさつって、こんな狭い町だから出馬する人は『戸別訪問』するんだよ」
と話していた。
だが、森山氏と親しい人はこう話す。
「森山氏は地元の地方選挙だけでなく、国政選挙でもあちこち動いていたのは事実。そりゃ、関電に森山氏が口添えすれば票が動く。関電が会見で『国会議員に人脈』と言っていたが、地元では誰もがそう信じるほど力があった」
関電との癒着、工事の受注について森山氏は、
「関電はよく知っていて、いろいろ話すことはある。その中で地元優先だとして、工事の金額が、ざっとしたものが出ることはある。けどそんな話は絶対に業者には言わない」
と工事の額を聞いたことがあると認めていた。
関電からの接待や便宜供与、森山氏からの金品提供などは、
「関電は役所のような会社だからできるわけない。(金品は)とらんでしょう」
と否定していた。
そんな中、当時、取材した原発関連業者が「うわさだが」と断ってこんな証言をしていた。
「関電のヤツが出世したから、祝いで手土産だといい中身は現金じゃなく金。舞鶴で有名な菓子折りの下に入れて渡す、小説か映画のような話もある。関電サイドは、返すに返せんって困っていた」
その業者に再度、連絡をとると、
「あのときはうわさとしてしか話せなかった。今覚えているのは、森山氏は有名貴金属店の上客。よく店の人が商品を届けていた。森山氏は『手ぶらじゃ何も教えてくれん』『町が発展し、もうかるのは関電のおかげ。還元してやらねば』と話していた。ワイロと思われても仕方のないカネを渡すことに抵抗がなかったようです。まわりで知っている者もいたようですが、『陰の町長』には刃向かえません」
この話が事実なら、関電が会見で繰り返し否定した原発マネーの還流、それを森山氏が認めていたことになる。
そして、関電から工事を請け負っていた土木建築会社「吉田開発」(高浜町)など2社からは、関電の豊松秀己元副社長、大塚茂樹、鈴木聡両常務執行役員が、吉田開発の顧問だった森山氏を介さずに、直接、計390万円分の金品を受けていたこともわかった。
関電はこれまで、森山氏から受け取った金品は「預かった」「不適切だった」としてきた。だが、直接、発注工事を受ける吉田開発などから金品を得ていたとなると、「事件」にはならないのか。
元検事の郷原信郎弁護士は、
「吉田開発など直接、関電から仕事を発注されていた業者から金品を受領していれば、会社法の贈収賄に問える可能性はある。関電はそれが怖いから報告書で吉田開発の受注実績を黒塗りにしたのではないのか」
と隠蔽(いんぺい)体質を批判する。
今回、報告書を作成した調査委員会の委員長は小林敬弁護士。今から10年前の大阪地検特捜部による証拠改ざん事件のときの検事正だ。一方、そのとき逮捕された元特捜部長の弁護人だったのが郷原氏だ。
「関電のデタラメぶりは、小林氏が委員長になっていることでよくわかる。小林氏は、証拠改ざんの報告を受けながら知らんぷりだった。自分の部下の証拠改ざんすら見抜けない人物。関電を調査してもロクな結果にならない」
と批判している。
【週刊朝日】