東京電力ホールディングスが建設を中断していた東通原子力発電所(青森県)を中部電力など4社の共同運営にする方針を固めたことが明らかになった。東電が他社との提携に頼ったのは、原発を巡る課題が山積しているためだ。事故を起こした福島第1原発の廃炉費用は膨れ、工程も遅れ気味。柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働も見通しが立たない。もはや東電は自身の力では東通を進められないほどの苦境に陥っている。
「原子力事業は1社でやることではない。再編や統合、メーカーの協力が必要だ」。2019年初め、東電の小早川智明社長はこう漏らし、東通原発の建設が東電1社では難しいことを示唆していた。
東電に代わって東通原発の事業主体になるのは、2018年8月に原子力事業の提携の協議開始の覚書を交わした東電・中部電・日立製作所・東芝の4社でつくる見込みの新会社だ。4社連合により東電色を薄めて建設再開にこぎつけたいとの思惑が東電からはにじむ。
東通原発1号機は2011年1月に着工し17年3月に稼働予定だったが、東日本大震災で工事を中断した。電力の全面自由化で顧客の離脱に歯止めがかからない東電にとって苦境を脱する一つの手が東通の稼働とされる。関西電力などが原発の再稼働を受けて電力料金を引き下げたように安価に調達できれば競争力が出るとの見方があるからだ。
ただ、福島第1の事故後、原発の安全対策費用は膨らんでいる。東電は7月、柏崎刈羽原発の費用を6800億円から約1兆2千億円に見直した。東通原発の費用総額は明示していないが、当初の想定より増えているのは明らかだ。これから大部分を建設する東通の巨額費用を他社と分かち合いたいとの考えもある。
事故を起こした東電が原発を建設することへの国民感情の問題もある。再稼働を目指す柏崎刈羽原発6、7号機も国の許可は得ているものの、地元の合意を得られず再稼働できていない。「もはや東電のままでは原発の稼働は難しい」(幹部)との声が社内で相次ぐ。
17年に策定した現在の再建計画では、福島第1の廃炉費用は当初想定した2兆円から8兆円に見積もった。こうした費用は国から借りる形をとっているが、将来は東電の収益から返す計画になっているが、足元では目指す利益水準に達していない。
福島第1では溶け落ちた核燃料(デブリ)を搬出するという難作業を21年から本格化する。原子炉を冷やす際に出る汚染水の処理も決まらず、保管するタンクの容量は限界が近づいている。福島第2原発の廃炉を7月に正式に決めたが、両方で計10基もの原発を同時に廃炉にするのは国内で初めてで、順調にいくかは見通せない。
再建計画は20年に改定する見込みで、現行計画の進捗を評価する時期にきている。共同事業化は苦境に立つ東電がとるべき選択肢の一つに位置付けられてきた。国内の電力各社も膨らむ安全対策費用に経営環境が悪化している。4社の新会社による共同事業化は、東電そのものの理由と同時に、こうした国内の原発事情を受けて表面化した事例とも言える。【日本経済新聞】