原子力規制委員会の検討チームが8日、「未知の活断層」を巡る対策強化を促す報告書案をまとめた。規制委は原子力発電所の耐震性の再評価を電力会社に求める方針で、追加工事の必要性や再稼働への影響が今後の焦点となる。電力業界からは再評価に最大1年、工事が必要な場合は最大7年超の時間が必要になるとの声が出ている。
原子力規制委は原発の耐震性の再評価を求める見通し(九州電力の玄海原発3、4号機)
原子力規制委は原発の耐震性の再評価を求める見通し(九州電力の玄海原発3、4号機)
規制委はこれまでも最新の知見に基づいて規制を見直してきた。今回は未知の活断層への対策強化にどの程度の猶予期間を規制委が設定するか注目される。
「場合によっては6、7年を超える可能性もある」。九州電力の担当者は3月の規制委の検討会合で、追加工事が必要になった場合の見通しを示した。そのうえで、耐震性の再評価や工事などにかかる時間を考慮して、十分な猶予期間の設定を規制委に求めた。
規制委は今回、未知の活断層が動いて起きる地震の揺れへの耐震性を新たな手法で再評価するよう求める。より多くの地震データを使うことで、未知の活断層への備えを強化するためだ。影響を最も受けそうなのが、九州電力の玄海原発(佐賀県)と川内原発(鹿児島県)だ。
11年3月に起きた東京電力福島第1原発事故の結果、日本の原発は津波や地震対策が十分ではないという批判を国内外から受けてきた。そのため新たな知見を基に作った新規制基準を既に建設済みの原発にもさかのぼって適用できるようにした。
規制委は12年の発足後、次々に規制を強化。核燃料が溶け落ちる炉心溶融などの過酷事故が起きることを前提に、原発を冷やし続ける設備の強化や放射性物質のフィルターを備えた空気の排出装置などを新たに求めた。
またテロリストによる原発への攻撃も想定して、航空機が衝突しても離れた場所から、原発を監視、冷却する施設の設置も義務付けた。
自然災害に関しては建物の耐震性向上、津波、火山への備えも強化した。津波が来る恐れがある原発は防潮堤を設置した。南海トラフ地震を警戒する中部電力の浜岡原発(静岡県)は、規制委の審査の過程で防潮堤のかさ上げが求められて、当初の18メートルから22メートルにあらためた。
規制委は新たな知見が得られれば、その都度規制に取り入れていく方針を示している。最近では中部電に対して、南海トラフ地震の津波への影響を厳しく見積もるように求め、最大22.5メートルの津波が来る試算が出た。
火山を巡っては大山(鳥取県)に関する新たな論文を受けて、関西電力が福井県に持つ3原発に降る火山灰の厚さの想定を引き上げるよう指示した。
地震では原発の規制基準では2通りの方法で耐震性を評価することが求めれている。「原発周辺に存在する活断層による地震」と「未知の活断層による地震」による最大の揺れに対しての耐震性だ。
多くの原発は近くにある大きな活断層が動いた場合の地震に備えた強い揺れを想定しており、十分な耐震性を備えている。九電の2原発では大きな活断層がないため、未知の活断層を想定した揺れへの耐震性が基準になっている。
これまでの規制委の指針では、未知の活断層による地震は全国一律で04年に北海道留萌地方で起きたマグニチュード(M)6.1の地震データで揺れを評価していた。今回、規制委が過去89地震の記録をもとに新たに作った揺れのパターンを各原発に当てはめて耐震性を評価することになる。九電の2原発で現在の想定を上回る恐れがある。
再稼働の審査が続いている原発への影響も懸念される。特に耐震性評価がおおむね終わっている東北電力の女川原発2号機、中国電力の島根原発2号機では、仮に再評価を求められれば、審査の長期化につながる恐れがある。そうなれば再稼働がさらに遅れることになる。
21年の完成を目指して審査が大詰めを迎えている日本原燃の使用済み核燃料の再処理工場(青森県)も影響を受ける可能性がある。規制委は猶予期間や審査への反映について今後、検討する。テロ対策施設と同様の事態を繰り返さないためにも、電力会社と規制委の十分な意思疎通が求められる。【日本経済新聞】