野党4党が国会に提出した「原発ゼロ基本法案」が一度も審議されないまま、丸1年を迎えた。4月の統一地方選、今夏の参院選を前に、「脱原発」の争点化を避けたい与党が審議入りを拒み続けている。
「リスクを考えれば、原発に合理性がないことは、はっきりしている」。東日本大震災当時、官房長官だった立憲民主党の枝野幸男代表は被災地視察後の11日、宮城県名取市で報道陣に語った。
原発ゼロ法案は、施行後5年以内に全原発の運転を止めることや、電力供給量に占める再生可能エネルギーの比率を2030年までに4割以上に高めることなどを盛り込む。昨年3月9日に立憲民主、共産、社民、自由の野党4党が衆議院に共同で提出した。原発推進の安倍政権との「対立軸」(立憲幹部)として、野党共闘の目玉に据える狙いがあるが、多数を占める与党が野党側の求めに一貫して応じていない。
「自民、公明が審議拒否している。葬り去ろうとしている」。2月5日、国会内であった民間団体など主催の集会で、立憲の菅直人元首相が与党を批判した。
今国会では8日、初の衆院経産委が開かれ、今後、中小企業の災害対応力の強化や円滑な事業承継を促す中小企業強靱(きょうじん)化法案など、政府提出法案の審議が本格化する。同委の自民党議員は「あんまり早く(政府提出法案の審議が)終わると、やることがなくなる。野党に原発ゼロ法案を審議しろと言われると困る」と漏らす。
ただ、議員提出法案は政府提出法案よりも審議が後回しにされるのが通例で、とりわけ与党が加わらない法案はたなざらしにされることが多い。原発ゼロ法案の場合、野党側の足並みもそろっていない。脱原発に反対する電力会社の労働組合を有力支持団体に抱える国民民主党は原発ゼロに慎重だ。自民党の幹事長経験者は「全野党が乗らない議員立法を審議入りさせる理由はない」と話す。
原発推進派が主導する構図が復活
東日本大震災から8年。未曽有の事故で原発再稼働に反対する世論は根強いが、エネルギー政策は推進派が主導する震災前の構図が復活している。
震災直後は、エネルギー政策の意思決定に民意を取り込もうという試みもあった。2012年、当時の民主党政権は討論を通じて意見の変化をみる「討論型世論調査」を実施。それをもとに30年代に原発をゼロにする政策を掲げた。
だが、自民党が政権に復帰すると、エネルギー基本計画をまとめる経済産業省の審議会のメンバーは推進派が大勢に。原発は「重要なベースロード電源」と位置づけられ、復権した。
現在、震災後にできた新規制基準に基づき再稼働した原発は9基で、今年はゼロの見通しだ。一方、日立製作所が英国での原発建設計画を凍結するなど、日本が官民で手がける原発輸出計画は事実上すべて頓挫したが、政権は「日本の原子力技術に対する期待の声は各国から寄せられている」(菅義偉官房長官)として失敗を認めない。
経団連の中西宏明会長(日立会長)は「日本のエネルギーは危機的状況」と国民的議論の必要性を唱えたが、脱原発の民間団体が公開討論を要請すると「議論にならない。水と油」と一転して拒否。原発政策を抜本的に見直す議論は一向に進まない。
原発ゼロ基本法案の概要
・法施行後5年以内に全原発の運転廃止
・2030年までに電気需要量を10年比で30%以上削減
・30年までに再生可能エネルギーの電気供給量に占める割合を40%以上に
・廃炉作業を行う電力会社や立地地域の雇用経済対策について、国が必要な支援をする
【朝日新聞】