東京電力福島第1原子力発電所事故から8年がたつ中、事故を教訓に策定された新規制基準のもとで再稼働が実現した国内の原発は5原発9基にとどまる。国は昨年7月改定のエネルギー基本計画で、原発を引き続き重要な電源として使う方針を表明。一方、焦点の建て替えや新増設には踏み込んでいない。海外への輸出案件も相次ぎ頓挫するなど原発を取り巻く状況は厳しさを増すばかりで、「国が原発の建て替えに言及しないことが最大の問題点」との指摘も出ている。
「原発が定着して、しっかりと経済・社会を支えているというところまでいたっていないと思う」。電気事業連合会の勝野哲会長(中部電力社長)は2月の記者会見で、原発の現状についてこう述べた。
再稼働が実現した原発は昨年4基増え、合計5原発9基となったが、今年は新たな再稼働はゼロの公算が大きい。また再稼働した原発はすべて福井県以西の「加圧水型(PWR)」と呼ばれる種類の原子炉で、東日本や福島第1原発と同じ「沸騰水型(BWR)」での再稼働はまだない。
電力各社が原子力規制委員会の審査での合格にこぎつけても原発への世論が変わった中では地元同意の取り付けは一筋縄ではいかない。安全対策工事の長期化や費用拡大の可能性も残る。
広がる廃炉
一方、国はエネルギー基本計画での2050年に向けた対応で、原発を「脱炭素化の選択肢」と明記している。2030年度の電源構成では、原発の比率を20~22%(17年度は3%)にすることが目標だ。
しかし目標の達成に懐疑的な見方は少なくない。20~22%の原発比率には30基程度が動く必要があるが、現実には再稼働のペースは遅いうえ、廃炉の動きも広がっている。廃炉が決定したり、検討されたりしている原発は24基(福島原発事故前の決定分も含む)と、再稼働した9基を大きく上回る。経済同友会の小林喜光代表幹事は2月の会見で国の目標について「あまり現実的でない」とした。
国の逃げ腰に批判
こうした中、国により積極的な対応を求める声も強まり始めた。国はエネルギー基本計画で原発の意義を強調しつつも、建て替えや新増設の必要性には直接的に触れていないからだ。
「(現行の政策メニューで)本当に十分なのかと問いたい。国はもっと踏み込んで政策を進めていくべきだ」。今月5日、自民党の総合エネルギー戦略調査会の会合で原子力政策について発言したある議員はもどかしさをあらわにした。
国が成長戦略の目玉に掲げてきた原発輸出政策も、日立製作所が1月に英国での原発新設計画の凍結を決めるなど、厳しい局面を迎えている。日本の原発関連の人材や技術、産業基盤は維持が危ぶまれている。
東京理科大大学院の橘川武郎教授は「最大の問題点は国が原発の建て替えに言及しないことだ。原発を使い続けるのなら危険性の最小化が大前提になる。そのために必要な建て替えに触れないところに、国の逃げ腰や先送り姿勢が端的に表れている」と話している。【産経新聞】