原子力発電所の安全対策費が膨らむなか、国内の電力大手が廃炉を決める例が相次いでいる。九州電力は13日、玄海原発2号機(佐賀県玄海町)を廃炉にすると発表。安全対策などの費用が数千億円規模になるとみられ、再稼働が難しいと判断した。国内全体で廃炉が決定済みや検討中なのは全体の4割に当たる24基に達する。建設済みの原発は再稼働で収益に貢献するが、事故などで停止する懸念もある。電力会社はリスクをより意識するようになっている。
■安全対策費は9000億円
「再稼働した場合の残存運転期間などを総合的に勘案した結果、廃止を決定した」。九電の池辺和弘社長は同日、佐賀県の山口祥義知事を訪れ、廃炉決定を報告した。廃炉費用は365億円に上る。
玄海2号機は1981年3月に稼働し出力は55万9000キロワット。11年1月に定期検査に入り、3月に東京電力福島第1原発の事故が発生した後は停止したままだ。稼働から原則40年の運転期限が21年3月に迫っていた。
九電には運転を延長して再稼働を目指す選択肢もあった。だが、福島原発事故以降の安全対策費は累計9000億円を超える。この費用がかさむほか、「(テロ対策施設建設の)スペースの問題がある」(池辺社長)ため断念した。
他の電力大手の間でも、膨らむ安全対策費用を背景に廃炉を決める動きが広がる。18年10月には東北電力の原田宏哉社長が女川原発(宮城県女川町、石巻市)について「コストを比較し、経済性を評価した」と1号機の廃炉を表明。原発事故を受けて導入された新しい規制基準に必要な安全対策がハードルになったもようだ。
実際、東電は柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)で4700億円と見込んでいた安全対策費を、工事が増えたことを理由に16年12月、6800億円程度に引き上げた。原発比率が高い関西電力の安全対策費は9000億円弱という。
■再生エネが拡大
九電の判断の背景には、太陽光発電など再生可能エネルギーが急速に普及したこともありそうだ。九電管内では18年末時点で830万キロワット程度の太陽光発電が送配電網につながっている。電力需要が減る春や秋、連休時には出力を制御する状況が度々起きている。
既に原発4基が再稼働していることに加え、19年末には100万キロワットの石炭火力の運転開始も控える。供給力に余裕がある一方、16年4月の電力小売りの全面自由化などで競争は激しくなり、電力販売量は減ってきている。高いコストで玄海2号機の再稼働を目指すほど、供給力を高める必要性は大きくなかった。
発電コストをどうみるかという問題もある。建設済みの原発は再稼働できればコストが下がり、関電のように値下げ攻勢に出る例もある。
足元では原発再稼働は電力各社の収益にプラスだが、長期的にみると原発のコスト競争力自体も揺らいでいる。米投資銀行ラザードは世界の新設案件を比較し、18年時点で原発のコストは石炭火力の約1.5倍と分析。欧州で普及が進む太陽光や陸上風力発電と比べると約3.5倍の高さになる。
■投資マネーも距離
原発を抱えると投資が呼び込みにくくなる面もある。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の荻野零児シニアアナリストは「原発は動いたり止まったりすると、利益への影響が大きい」と指摘。再稼働すれば増益期待から株価は上がるが、「震災や、(そのときの政権が)原発はやらないと言い出すリスクもある」。海外の投資家にはデメリットを重視する傾向もあるという。
膨らむ安全対策費や取り巻く環境の厳しさから廃炉作業は本格化する。縮む市場に対応しようと、東電と中部電力、日立製作所、東芝は昨夏、発電会社とメーカーの枠を超えた提携協議を始めた。
政府のエネルギー基本計画では、30年の全電源に占める原発の比率を20~22%とするが、電力各社の廃炉は進む。同計画で26%を見込む石炭火力発電も温暖化ガスの多さから逆風が高まり、建設計画の見直しが相次ぐ。全体の5割を頼るはずの2つの基幹電源が揺らぎ続け、日本のエネルギー政策にも影響しそうだ。【日本経済新聞】