福井県内にある関西電力美浜原発3号機と高浜原発1~4号機について、地元住民らが関電に運転の差し止めを求めた2件の仮処分申請で、福井地裁は29日、いずれも却下する決定を出した。加藤靖裁判長は「重大な事故が発生する具体的な危険があるとは言えない」と述べた。
美浜3号機と高浜1、2号機は1970年代に運転を開始。原子力規制委員会が40年を超える運転を認可しており、決定は安全対策の妥当性を認めた。
仮処分を申し立てたのは、美浜3号機が福井県の住民9人。高浜1~4号機は福井、埼玉両県の住民2人。住民側は老朽化に伴って事故発生のリスクが高まり、地震対策にも不備があるなどと主張していた。
2件の決定は、関電が40年超運転の認可申請に当たり、原発設備の目視や超音波検査などを実施したと認定。劣化状況を十分に考慮して耐震安全性を確認していると述べ、「関電の点検や規制委の判断は合理的だ」と指摘した。
美浜3号機では原発から1・3キロと3キロにある二つの断層について、特別に考慮して地震対策をすべきかも争点となった。決定は国の基準で適用範囲が明確に定まっていないうえ、断層の形状なども踏まえて考慮対象としなかった関電や規制委の対応は「不合理と言えない」と述べた。
住民側は原発事故時の避難計画に実効性がないとも訴えていたが、決定は「避難が迫られるような危険性の立証が不十分だ」と退け、計画内容についての判断は示さなかった。
東京電力福島第1原発事故(2011年)を受け、原発の運転期限は「原則40年」とするルールが定められているが、点検などを経て最長60年まで延長できる。関電は運転開始から40年近くたっている高浜3、4号機についても延長認可を規制委に申請している。
住民側は決定を不服として、2件とも即時抗告する方向で検討している。関電は「当社の主張を理解いただいた。引き続き、原発の運転・保全に万全を期していく」とのコメントを出した。
住民ら「不当判決」
原発の運転停止を認めなかった決定を受け、仮処分を申し立てた住民らは福井地裁前で「不当決定を許さない」と書かれた旗を掲げた。その後の記者会見で代理人弁護士からは「結論ありきだ」との声が上がった。
会見で代理人を務める井戸謙一弁護士は「強引な理屈をつなげただけだ」と批判。仮処分はただちに効力が発生することを踏まえ、「訴えを認めれば、すぐに原発が止まる。社会的に影響が大きく、裁判官も慎重になったのだろう」と話した。
40年超原発の危険性を訴えてきた裁判。井戸弁護士は「原発周辺の住民が安心して暮らせるよう、これからも差し止めを求める」。同じく代理人の河合弘之弁護士も「裁判所の壁を突き崩す活動を続けたい」と語った。【毎日新聞】