東京電力福島第一原子力発電所事故から11日で13年を迎えた。廃炉作業中を含む15基の原発が立地する福井県・嶺南では、福島の事故などを教訓に避難道やヘリポートの整備が進んだ。一方で、元日の能登半島地震では北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の周辺で多くの道路が寸断。重大事故が起きても逃げ道を失うリスクがあらわになり、住民らから不安の声が出ている。
空路使えず?
関西電力高浜原発(高浜町)から2キロほどの高浜町 音海おとみ 地区。約100人が暮らす集落の大半が高齢者だ。原発事故が発生すれば、ただちに避難が求められる原発5キロ圏内の「予防的防護措置準備区域」(PAZ)に含まれる。地区内の住宅は県道を挟んで海が近く、町役場のある中心部へ向かうにはこの県道と、途中で分岐する町道しかない。
「地震でもし道路が崩れたら避難できない」。地区に住む70歳代男性はこぼす。能登半島地震では住民同士で助け合って高台の避難所へ逃げた。
それでも、不安は尽きない。「地区内に多い空き家が地震で倒壊すると、避難所までの道路を遮る恐れがある。万が一原発事故が起きれば、逃げることもできず被曝するかもしれない」。男性は孤立した能登半島の集落をテレビで目にした。「道路が塞がれば、自衛隊などの支援を待つしかないだろう」
音海地区は、県が災害時に孤立が想定されるとした49地域の一つだ。県は周辺に夜間でもヘリコプターが離着陸できるヘリポートを整備。担当者は「有事には空から避難できる体制を整えている」と説明する。
しかし、空路の利用は悪天候だと困難だ。高浜原発1号機の重大事故を想定した昨年秋の県の原子力総合防災訓練でも天候に恵まれず、ヘリの飛行区間が予定より短縮された。県幹部は「より実効性のある対策を検討したい」とする。
危険?な方向へ
関電美浜原発(美浜町)から南へ車で30分ほどの距離にある美浜町の新庄地区。山あいに位置し、同原発から5~30キロ圏内の「緊急時防護措置準備区域」(UPZ)に含まれる。原子力災害時には住民全員が屋内に退避。放射線量に応じて圏外に移動することになっている。
しかし、避難の際は地区の南方の滋賀県高島市に安全に移動できる道路はなく、北上して同原発近くの沿岸部を通らねばならない。地区代表の男性(65)は「万が一、巨大地震、津波や原発事故が発生すれば、本当に海のそばを通って逃げられるのか。能登の地震で別の避難道路が必要だと強く感じた」と語る。
住民や町は新庄地区と高島市を結ぶ避難道(約6キロ)の整備を国に要望しているものの、町の試算で約300億円とされる建設費などがネックとなり、着工のめどは立っていない。
「国の責任」明記
政府が昨年2月に閣議決定した「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」では、地域の実情を踏まえた自治体支援や避難道整備などに「国が前面に立って取り組む」と明記している。
県出身の東洋大・井上武史教授(地方財政論)は「原発が立地する自治体は、都市部に安価で安定した電気を送っている。立地地域の安全が向上するためなら、国は費用対効果だけを考えず、道路整備をしっかりと進めるべきだ」と訴える。【読売新聞】