能登半島地震で、石川県志賀町にある北陸電力志賀原発1号機地下では震度5強を観測。揺れの加速度が、設計上の想定を一部でわずかに上回った。
原発自体に大きな被害はなかったものの、敷地内外で設備が故障、事故時の避難に使う陸路は機能不全となるなど「想定外」も相次いだ。
地震・津波と原発事故による複合災害がいかに過酷なものかを示した、東京電力福島第1原発事故の教訓は生かされたのか。
志賀原発とは
志賀原発は、北陸電力が石川県志賀町に保有する原発で、1号機は1993年、2号機は2006年に営業運転を始めた。1号機は2011年3月にトラブルで停止し、そのまま定期検査に入り、2号機も同月に定期検査入りして以降、停止している。
志賀原発は、北陸電力が石川県志賀町に保有する原発で、1号機は1993年、2号機は2006年に営業運転を始めた。1号機は2011年3月にトラブルで停止し、そのまま定期検査に入り、2号機も同月に定期検査入りして以降、停止している。
地震による被害
今回の地震で1、2号機の変圧器が破損し、外部電源の一部が使えなくなった。全電源を失った東京電力福島第1原発事故を教訓に、電力会社は電源の多様化を進めており、送電鉄塔の倒壊などで外部電源が途絶えても原子炉の冷却は維持できる。だが、施設内の変圧器が先に壊れる事態は想定外だった。
北陸電力は、変電所内で2つ壊れたセラミック製の絶縁性がある送電部品をメーカーに発注。これから製作する必要があり、外部電源の完全復旧は半年以上かかるという。
報告された主な被害
約3メートルの津波到達
1、2号機の変圧器で配管が破損し、油が計約23,400リットル漏れる
1、2号機の使用済み核燃料プールの水が計約421リットルあふれる
2号機主変圧器と、外部電源5回線中、2回線が使用不能に
周辺の放射線監視装置の一部が測定できなくなる
物揚場埋め立て部のコンクリート舗装などで地盤沈下
モニタリングポスト測定不能
外部電源2回線が使用不能
3m津波到達
変圧器破損 使用済み燃料プール溢水
地盤沈下
" 安全基準の妥当性、見直しを
藤本光一郎 東京学芸大学名誉教授(地質学)
断層が大規模に一気に滑るとは想像できなかった。断層の連動性や地盤隆起を含め、原発の安全の基準が妥当かどうか見直さないといけない。日本海側は、海に断層があり津波の危険がある。自然条件で原発の立地に適したところはない。
地震対策を巡る論争
志賀原発は、地震対策をめぐって論争が絶えない。2006年に金沢地裁は、2号機の耐震性に問題があるとして運転差し止めを命じる判決を言い渡した。上級審で覆されたが、東電福島第1原発事故以前では唯一の原発差し止め判決だった。
敷地内にある断層が活断層かどうかをめぐっても議論が繰り返されてきた。
敷地内の主な断層
志賀原発で問題となっているのは、1号機原子炉建屋直下を通る「S-1断層」や、2号機の下を通る「S-4断層」など計10本。S-1断層は原子力規制委員会の有識者調査団が2016年、活動性を指摘する報告書をまとめたが、北陸電力側は、断層の活動性を否定するデータを提出。2023年には、規制委が、北陸電力の「活断層ではない」とする評価を妥当と判断していた。
敷地内断層を巡る動き
情報発信に課題も
地震直後、志賀原発では火災が起きたかどうかで混乱が起きた。
放射線管理区域内の2号機変圧器で警報が鳴り、運転員が現場に駆けつけたところ油の漏えいを発見。中央制御室に「焦げ臭いにおいがした」「爆発音がした」などと連絡した。中央制御室の当直長は119番し「火災発生」と伝え、原子力規制庁にも報告した。
林芳正官房長官は記者会見で「変圧器の火災が発生したが消火済み」と発言したが、改めて現場確認したところ、焦げ臭いにおいの原因は油漏れで、爆発音は「放圧板」と呼ばれる変圧器の外側に付いた設備の作動音で、火災はなかった。
変圧器からは放射性物質を含まない絶縁油が漏れた。北陸電力は2号機分を約3500リットルと説明していたが、後に5倍超に訂正。一部は海に流出した。
また北陸電力は1月2日当初、「津波は確認できていない」としていたが、敷地前面の防潮堤付近に設置した波高計で海の水位変動を分析したところ、地震発生から約1時間半後の1日午後5時45分ごろ、約3メートルの津波が到達していた。
北陸電力幹部は「社内の情報連絡ができていないかったものと反省している」などと陳謝、情報発信に課題を残した。
北陸電力では1999年、1号機で意図しない核分裂反応が持続する「臨界事故」という重大な事故を起こしたが8年近く隠蔽していたこともあった。【福島民友新聞】