地震大国の日本が原発を抱える危険性を説く元裁判官の樋口英明さんらを追ったドキュメンタリー映画「原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち」の上映会(横浜北生活クラブ生協主催)が横浜市港北区のスペース・オルタで開かれた。会場では、樋口さんから届いたメッセージの紹介や、小原浩靖監督(59)のトークがあった。能登半島地震が起きたばかりでもあり、来場者から原発に強く反対する声が聞かれた。(吉岡潤)
同作は、2014年に関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止め判決を出した福井地裁元裁判長の樋口さんが、国内の地震発生時のデータと原発の耐震設計の基準となる値を比べ、原発の耐震性がいかに低いかを説き続ける姿を映す。
樋口さんは上映後に紹介されたメッセージで「脱原発運動の最も強力な敵は政府でも電力会社でもない。『先入観』だ」と指摘。「原子力規制委員会の審査に合格しているのだから、少なくとも東京電力福島原発事故後に再稼働した原発はそれなりの安全性を備えているだろう」「政府が推進しているのだから原発は必要なのだろう」など、いくつかの先入観の中で最も強力な敵を「原発は難しい問題という先入観」とした上で、決して難しくないと説いた。事故が起きれば被害は甚大であるにもかかわらず、耐震性が低くて事故発生率は高いと論じ、ドイツが昨年4月に全原発を停止したことに言及して「原発はやめるしかない」と断じた。
さらに能登半島地震で大きな被害を受けた石川県珠洲市は昨年5月にも震度6強の地震に襲われたこと、その20年前に原発建設計画が凍結された事実を回顧。加えて震度7を記録した同県志賀町にある原発が停止中だったことに触れ、能登半島地震を「自然界からの最後の警告かもしれない」と表現し、「警告に真摯(しんし)に耳を傾ける必要があると思う」と締めくくった。
小原監督は、能登半島地震で観測した揺れの強さを示す加速度が志賀原発の設計上の想定を超えていたことなどを解説。取材に「能登半島地震は悲しくて残念だが、一方で地震と原発の関係性という社会的な問題を改めて提起した。注目してほしい」と語った。
作品を初めて見た横浜市港北区の蒔野(まきの)恵子さん(68)は「珠洲で原発の計画に反対した人たちはすごかったと思う。日本もドイツにならって早く原発をやめるべきだ」と話した。同市港南区の高野由紀子さん(50)は「3・11(福島第1原発事故)の時点で原発はストップすべきだったのに政府はいまだに推進している。国民は無関心ではいけない」と力を込めた。
◆ソーラーシェアリング普及を 作中登場の近藤さん訴え
ソーラーシェアリングの現状を説明する近藤さん
ソーラーシェアリングの現状を説明する近藤さん
作品の登場人物で、福島県二本松市の農地に太陽光パネルを並べ、作物の栽培と太陽光発電を一緒に行う「ソーラーシェアリング」を進める近藤恵(けい)さん(44)がゲストとして来場した。
近藤さんは、東京電力福島第1原発事故でいったん農業をやめた後、2021年から大規模なソーラーシェアリング事業を手がける。「プロジェクトを始めたときは生みの苦しみがあった。今も大きな課題に直面している」と説明。国はソーラーシェアリングの入り口を狭くしているといい、「普及させ、その中で悪いものが淘汰(とうた)されるようにすべきだ」と訴えた。【東京新聞】