国連人権理事会に任命され、東京電力福島第1原発事故の避難者の実態を調査した専門家が、日本政府に対し「放射線に関して安心できる情報だけを提供し、避難者より帰還した人に手厚い支援を行うことは国際法の基準に反する」と指摘した最終調査報告をまとめたことが25日、分かった。7月4日にも人権理へ正式に提出される。
国内避難民の権利担当の特別報告者だったセシリア・ヒメネスダマリー氏が昨年9~10月、来日して調査した。人権理会合では、当事国の日本や各国から報告書の内容に対する意見や質問が出され、ヒメネスダマリー氏が回答する予定。
共同通信が入手した報告書は、事故後、政府が「差し迫った危険はない」と市民に強調し、事態の深刻さを軽視したと批判。詳しい説明に消極的で、矛盾するメッセージを伝えることもあったことから、市民は自分で避難するか決断せざるを得なかったとの見方を示した。放射線に関する政府の情報への信頼は失墜したと指摘し、科学に基づいた中立的な情報を提供するよう促した。
また、避難指示区域の決定は厳密に科学的なプロセスではなかったにもかかわらず、政府は対象区域内からの避難者と、区域外からの自主避難者を区別し、補償や支援で差をつけたと非難。避難者は同じ権利を持つとして「区別を完全に撤廃するよう強く勧告」した。
福島県が2017年、自主避難した人らへの住宅の無償提供を打ち切った一方、帰還した人に住居費などの金銭的な優遇措置が与えられていると指摘。事故で避難した全ての人を等しく支援するべきだと政府に求めた。避難先に永住する権利を認める重要性も示した。
ヒメネスダマリー氏は昨年9月下旬から2週間近く、福島県や東京都、京都府、広島県を訪れ、政府関係者や避難者から聞き取りを行った。人権理に任命された専門家による初の本格調査だった。【共同通信】